『お前では、これからの戦いについていくには力不足だ』とは、お父様からの言葉。

 『あのような目にあったのですよ?! ここから先の戦いについていくというのですか?!』とは、ラフェンサ姉様からの言葉。

 『遺跡に一緒に挑んだあなたは言えた立場ではないでしょう』とは、それを聞いたコークル姉様の顔に書いてあった言葉。

 ……最後のひとつは何か違うが、とにかく私は、ヤキトさん達と共に戦うには力が不足している、と思われている。

 実際、自分でもそうだと思わないではない。元々の戦闘技術や経験の差もあるし、捕まってしまっていた期間の分だけブランクも存在する。

 なにより……一度そんな大失態を犯してしまっている以上、引き止められてしまうのも仕方のないことだ、と頭では理解できている。

 それでも私は、彼らに着いて行きたかった。このまま何もせず、街で吉報を待ち続けるだけ、ということはしたくなかった。

 だからお父様の、姉様がたの説得を何時間も試みた。

『分かりました。では……ヤキトさん達に決めていただきましょう。但し、ただ承諾してもらうのではなく、何らかの試練を課してもらい、その結果から判断をしてもらうこと』

 そうして、ようやく提示してもらえた条件がこれだ。

 なので、どれだけこの場でヤキトさんに許可を貰えたとしても、条件を満たすことはできないのだ。

「なるほど、実に理に適っている……にしても試練、か」

 事情を聞いたヤキトさんは、腕を組み、考える仕草。

 いきなり試練を出せ、と言われても、確かに困ってしまうだろう。

「心当たり、ありませんか?」

「あるにはあるが……あの試練は、向こうからやってくるものだからな……」

「そうなのですよねぇ……」

 彼のいうあの試練とは、ザイア神官の間に伝わる"アインハンダー"のことだろう。

 高位のザイア神官になると、ある時突然、その魔剣の迷宮に出くわすのだという。

 それがいつかは誰にも分からないし、そもそも私はザイアの神官ではないので、挑むにしてもヤキトさんに着いていく形になってしまうのだろうが。

 なんにせよ、それを試練としてもらうのは難しい話だ。

「エリアスさんやユカリさんにも確認してみましょうか」

「そうだな……酒場にいると言っていたし、もしかしたらそこでそれらしい情報が手に入るかもしれん」

 そういう訳で、ここで一度話を切り上げ、私達が最初に出会ったあの店へと向かうことになったのだった。


 ◇ ◇ ◇


「そういうことならおめぇさんら、良いとこに来たな。ちょうどその情報が入ったのよ!俺達拳闘士の憧れの迷宮!竜顎爪の迷宮のなぁ!」

「……テンションはさておき、そういう事情なら丁度いいかもね」

 やけにハイテンションな山羊はさておいて、こちらを見つめて反応を伺っているアデリーに向けて、私はえぇ、と小さく頷き返した。


 竜顎爪。第六世代に分類される、手甲型の魔剣。

 それが作り出す“魔剣の迷宮”は、腕利きの拳闘士達の間で修行の場として利用されており、攻略しても魔剣を持ち出さず、代わりにそれを証明する竜の刺青を左腕に彫る、という文化が存在しているそうだ。

 そしてその迷宮が、なんとこの街の近くにあるという情報を店主から告げられた訳だが、じゃあ挑みに行こう、となっているのはエリアス一人だけであった。

 しかしそこにヤキトとフェンさんが現れ、そういう事情であれば、と私とアデリーも向かうことにしたのだ。

 理由もなく挑むのは乗り気になれないが、フェンさんの為とあれば話は別だ。

 何より、ヤキトはともかく、エリアスからはフェンさんを守らなければなるまい。

「だそうだ。よかったな、フェン」

 ヤキトにそう言われると、フェンさんは嬉しそうに微笑む。するとそれを見た周囲の男性客達の、フェンさんを見る目が少し変わったように感じた。

 ……この容姿で男、と言いはるのはやはり無理があるのではないだろうか。

 アデリーの方が可愛いだろう、ということについては決して譲るつもりはないが。

「おし。そうと決まればしっかり食って行きな。お前たちのおかげでかなり繁盛しているからな、今日はおごりでいいぞ」

 話を聞いていたらしい店主が、言いながらロティサリーチキンを運んできた。

 かなりの大きさな上、結構なお値段の料理。それをタダで頂けるとは。

 英雄として苦労するのも、悪いことばかりではないみたいだ。

「おっ、太っ腹だねぇ」

「ありがたいですね。……ほとんどあなたの分になりそうですが」

「あ?お前さんらが食わないのがいけねぇんだよ」

 まぁ、大体はこの山羊の胃袋に収められるのだが。

 私含む女子達はあまり食べすぎると、こう、アレがアレしてしまうし、ヤキトはそもそもこの手の料理は食べられない。

 だからと言って、すべてこの山羊にくれてやるつもりもないが。量をわきまえているだけで、食べることはもちろん好きだ。

「乙女にとっては重要な問題なんですよ、食事というのは」

 そう返しながら、私も卓上の肉へと手を伸ばすことにしたのであった。


 ところでキルヒア様、どれだけ食べても身体の一部分が成長する兆しが全く見えないのですが、これはどうしたら解決するのでしょうか。

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