馬が合いしは脚と拳

 俺達の前に姿を表したのは、紅い髪と瞳、そして色白の肌の男。

 驚いた顔でこちらを───俺を見つめるそのラルヴァの事を、俺は知っていた。

「……イッサ、なのか?」

「……ああ。イッサ・シュラインベルだ。よろしく」

 俺が名を口にすると、彼もまた皆にその名を告げた。

 間違いない。俺の命の恩人にして、同じ道へ進んでゆくことを誓った、あの男だ。

 再び顔を合わせるのは、お互い一流になってからだろうか、と考えていたが。

 再会という物は思わぬ所で訪れるものだ。

「ひゅー、イカしてる野郎がきたじゃねぇか!……どうした?ヤキト」

「何でもない。……そうだ、お前と気が合いそうだぞこいつは。色んな意味でな」

「ほう?……っと、申し遅れた。エリアス・ハーヤネンだ」

 隣に立っていたエリアスが不思議そうに尋ねてきたのを、それとなく流す。

 別に隠すことではないとは思うのだが、正直に昔馴染みだ、と言う気にはなれなかったのだ。


「私はユカリ・ラーテです。この子はアデリー」

「よ、よろしくお願いしますね」

 俺達に続き、女性二人も名乗る。

 淑女然とした振る舞いのユカリと、どこかあどけなさを感じさせるアデリー。

(お前、こんな子達と一緒に仕事してるのか?)

 そんな二人に見つめられたイッサが、困惑の表情でこちらに視線を送ってくる。

(ま、色々あってな)

 こちらも目だけでそう返しておく。

 一方、その間にイッサの装備へじっくりと視線を注いでいたエリアスが、

「しかし拳闘士ねぇ。今度やり合ってみてえなぁ、おい?」

 くつくつと笑いながら、そして指の骨をこきりと鳴らしながらそう言う。

 それを見たイッサもまた、愉しそうに笑ってこう返した。

「はは、目的を達成したらな」

「カカッ、そりゃいいな!」

「……あぁ、割とそういう感じの人なんですね……」

 早速意気投合している二人を目の当たりにしたユカリは、静かに溜息を吐いていた。

 彼女にとっては、エリアスの様な熱血漢が増えるのはあまり望ましくないことだっただろうか。

「あぁ。そういう奴だぞ」

 まぁ許してやってくれ。決して悪い奴ではない。

 そう思いながらユカリを宥める俺もまた、柄にも無く顔を綻ばせていた。




「さて。今後の話をするぞ」

 新たなメンバーを迎え入れたところで、アノーシャグさんが本題を切り出す。

 次の目的地は、リーゼンとディザの間に位置する自由都市同盟。

 そこに件のアルフォート城があり、そしてあの男が待ち構えている。

 ルキスラの兵士達には既に話を付けており、後は作戦を実行に移すのみ、という状態らしい。

 素早い手回しに感謝しつつ、準備を整えることにして、この場は解散となった。


 翌日、改めてディザを出発。

 馬車に揺られ、森を抜け、目的地である城を臨める地点へと到着していた。

 見張りの数は、見えているだけで八。見えていない場所や城内の兵まで含めれば、相当な数がいるだろう。

 いつだったかのコ・クーレ邸と同じようにはいかなさそうだ。

「歓迎しては貰えていないみたいだな。正面突破したいところだが」

「駄目だ」

「冗談だ、冗談」

 楽しそうに笑うイッサの提案を、ヤキトが一蹴。

「それも楽しいと思うんだがなぁ?」

 それを聞いたエリアスは残念そうに言った。

 どうして拳闘士というのはこう、血の気が多いのか……

 しばらく頭を抱えさせられる機会が多くなりそうである。

「楽しんでる場合か」

「そうですよ。いちいち戦っていたらキリがないですからね」

「だね、侵入できそうな場所を探してみよう。……それでも駄目だったら、うん」

 二人を宥めつつ、まずは城の周りを確認することにした。

 城の主がただの魔神ならばまだしも、今回は将軍であるアン・リブレが待ち構えていると分かっている。

 いつも以上に無駄な消耗は避けなければいけない。魔法の使用も抑えるべきだろう。

「……とは言え、この子は呼んでおかなくては」

 偵察の前に、魔晶石を一つ取り出して妖精を召喚する。

 月の妖精、ドゥナエー。

 彼女……いや、正確には性別がないのだが。それはさておき。

 彼女達は戦闘能力こそ皆無だが、舞いによる祝福で他者に幸運をもたらしてくれる。

 常に状況や運がこちらに味方してくれるとは限らない。戦いとは、冒険とは、得てしてそういうものである。

 故に彼女達のこの力は、冒険者にとってこの上なく有り難いものなのだ。

「……楽しそうで」

 ……などと真面目なことを考えながら、一緒に踊っているのが私です。てへ。

 しかし元踊り子の血がどうしても騒いでしまうのだ。つまり仕方がないことなのだ。

 それにほら、こういうのが妖精と仲良くなる秘訣なのであって───

『ユカちゃん、ユカちゃん』

 と、一人言い訳を考えていると、ドゥナエーが何かに気付いたようで私の服の裾をちょんと引っ張ってきた。

『ん、どうしましたドゥナちゃん?』

『あっち、水路ある。あっち、マジンいない』

『あら。ありがとうございます』

 どうやら踊りつつも周囲に目を配っていたらしく、進みやすそうな道を見つけてくれたようだ。

 感謝の言葉を述べつつ、頭を撫でてあげる。小さい妖精はこういったスキンシップを好む子が多い。

 彼女が満足したところで、皆にも水路の話を伝える。

 道が分かったのであれば先を急ぐべきだろう。長居しても見つかってしまう可能性が上がっていくのみだ。

「マジンがいない、マージー?……うむ、今日の俺も冴えてるな」

 馬鹿な事を言っている山羊は無視しておきましょう。

 何ですか、マージーって。

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