あちらさんのお説教も一段落して、いよいよ本題。

 試練を超えることではなく、アパスタークを持ち帰るのが俺達の今の使命だ。

「さて、秘宝だったな。……あの通路の先だ」

 エンストークが壁の一角を鼻で小突くと、それは横に動き出す。

 どうやら隠し扉になっていたみたいだ……が、その先には通路などなかった。ちょっとした窪みがあるだけの、道と言うかただの狭い空間でしかない。

「……つ、通路?」

 ユカリもこの様子なので、俺の目がおかしい訳でも学が不足している訳でもないということは断言しておく。

 で、どうするんだこれ。まさかこれも試練かなんかなのか?

「……ヤキト、誰が行く?」

「俺が行こう。……それにしてもこんな人工的な通路、不自然すぎて普通なら躊躇ってしまうな」

 どうしたものかと悩む俺達の横で、アデリーの質問にヤキトがそう答えていた。

 ……あれ、お前今なんて言った?通路?人工的な??

「通路は資格があるものしか見えないのだが」

「資格。この腕輪のことか?」

 どういうことだ、と思ったが。なるほど、これも資格とやらがないといけないのか。

 それじゃここはヤキトに任せるか。…………腕輪、やっぱり俺も欲しいな……宝物庫にもう一個あったりしないかな……

 などと考えているうちに、岩の中へ消えたヤキトが再びぬるりと姿を表した。

 手にしているのは、いかにも秘宝ですと言わんばかりに豪華な首飾り。

 俺やヤキトはもちろん、ユカリとアデリーでもちょっと似合わないだろう。というかなんか畏れ多い感じがする。

 一体何処の誰が身に付けていたんだ……ってそりゃ王族か。さぞや美男美女揃いだったんだろうな、これを持て余さずに身に付けられるなんて。

「……あ、ここまで来て何も餞別無しってのも淋しいし、ちょっと宝物庫見てく?」

 無事に回収が完了したのを見届けて、プロトーンが追加の戦利品の話を始める。

 冒険者として聞き逃せない話だ。魔晶石しかり魔符しかり、今回の戦いは全員結構な出費をしている。

 赤字で終わらせるわけにはいかない。いいもん貰って帰らせてもらうとしようか。


 ◇ ◇ ◇


 アパスタークを回収し、宝物庫からいくらか金品や魔法の品を拝借し。

 無事に任務を終えた私達は三匹の龍に別れを告げて、洞窟の外へと出ました。

 すると既に、迎えの馬車がやって来ていました。御者台に座っていたのは、やはりトマスさん。

「迎えに来ましたよ、皆さん。ディザでアノーシャグの旦那がお待ちです」

 そうして馬車に乗せられて、一度ディザへと寄ることに。

 まぁ、どうせ歩いてディルクールまで帰るのは無理なので。姫様達も多少の寄り道は許してくれるでしょう。

 ───そう思っていたんだけど。

「連絡があったそうなんです。リーゼンのアルフォートでアン・リブレが待つと」

 思いもよらぬ招待状を、またも受け取らされることになりました。

 早く渡しに来い、ってことかな。意図がどうであれ、私達には向かう以外の選択肢はやはりないのだけれども。


 ◇ ◇ ◇


 そのままディザに到着し、アノーシャグさんの待つアジトへと。まずは詳しい話を聞いてみないことには動けません。

 しかし焦ってやって来た私達とは真逆に、待っていたアノーシャグさんの表情はどこか嬉しそうでした。

「おう、大変だったな。まずはゆっくり休んでくれ……と言いたいところだが。先にいいニュースを伝えたくてな」

 そしてにやりとしたいい笑顔。癖なんだろうか、以前もこんな感じの顔を見せられた気がする。嫌いじゃないけどね。

「ほっほう!それはなんだ?」

 さっそくエリアスが飛びつく。こんな状況下でもそう言える程のニュースってなんだろう、と私も気になるところ。

 宥めるような、一方でやはり楽しそうな声でアノーシャグさんはこう続けます。

「ああ、一人助っ人が加わる。俺達よりも圧倒的に強いし、お前達と一緒に行っても問題ない人材だ。そいつと一緒にアン・リブレを仕留めてきて欲しい」

「助っ人ですか。それは純粋に嬉しいですね」

 なるほど、それは確かにありがたい。

 で、それは一体どんな人だろうか?前衛と後衛のどちらでも、私達には需要がある。

 前でエリアスヤキトと一緒に前線維持をしてくれるでも、後ろで私とユカお姉ちゃんと一緒に補助や火力支援をするでも。

 私は出来れば後衛、それも女の子だと嬉しいなぁ、なんて思いながらユカお姉ちゃんと共に扉の方を向く。

「来てくれ」

「ああ、失礼する……」

 そうして視線を向けた先から、アノーシャグさんの合図で入ってきたのは、エリアスと同じ拳闘士の装備をした男の人だった。ざんねん。

 だけどあの見た目───真っ赤な髪に真っ赤な瞳、そして若干血色の悪そうな肌色は、もしかしてラルヴァかな。

 ユカお姉ちゃんと同じ感じの種族、と思うと少し接しやすい感じがしてきます。

 ……ところで彼は、どうして驚いたような顔をしたまま固まっているんだろう。

 私達のことを聞いていなかった、とかかな。

 そう思って、一応アノーシャグさんに確認しようかとそちらに向き直ろうとした時。


「……イッサ、なのか?」

「……ああ。イッサ・シュラインベルだ。俺も拳闘士をやっている。よろしく」


 何故かヤキトが。本人より先に名前を口しました。

 そして彼、イッサはそれを疑問に思わないまま自己紹介を続けます。ヤキトに対して意味深な笑顔を送りながら。


 一体どういう関係なんだろう?既に知り合っていたかのようなやり取りだったけど。

 やけに力強く握手をしている二人を見つめながら、とりあえず私達も自己紹介に続くこととしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る