弐
扉の先に続いていた通路を進むと、再び扉。
先程のものと同じ見た目だが、よく見ると窪みだった部分には手形が描かれている。
また村長に協力してもらわないといけない、となると困るのだが。どうしたものか。
「こいつはなんだ……?」
と考えていた所、エリアスが躊躇なく手形に手を合わせた。
それに反応してか、扉のからはヴーというブザーの音。
加えて響いて来た、悍ましく力強い雄叫び。
……もしかしなくてもやらかしたか、これは。
「おいおいおい……失敗した感じかぁ?というか敵だなぁ!!」
一応王族の権能を持っている俺がいることだし、後ろにはエンホークも控えているが。一体何が───
「──って、君達か」
来るのかと思えば、エンホークその人……いや龍か。彼の声が通路に響いた。
「なんだ、お前さんかい……」
「向こうからか?そっちで何をしているんだ?」
「いやいや。僕がいるのはこっちだよー」
安心しているエリアスを横目に、扉の向こうに問いかけてみる。
が、彼は移動していた訳ではないらしい。よく耳を澄ませれば、確かに声が聞こえてきているのは後方からだ。
慌てている様子もないので、特に問題はないということだろうか。
「誰が手を合わせたの?多分権利がないと駄目だよ、それ」
「権利……ヤキトが合わせれば大丈夫ですかね」
続いてこのようなことを。ユカリの言う通り、やはり俺がやれということか。
エリアスに退いてもらい、今度は俺が手形に手を合わせてみる。
すると今度は警告音が聞こえてくることはなく、代わりに扉が一瞬光り輝いた。
「開けてみるぞ」
そのまま扉を軽く押してみると、先の扉と同様いともたやすく開いてくれた。どうやらこれで良かったらしい。
扉の先が安全かどうかをエリアスと確認し、そして先へ進む。
さて、今度こそ宝か……あるいは試練のどちらかが待っているのだろうか。
◇ ◇ ◇
二つ目の扉の先には、先ほどと違い広い空間が広がっていた。
しかし何もない空間だ。何かあるとすれば、赤と青の大きな龍の像が二つだけ……
……いや、本当に像だろうか?それにしては精巧すぎる気がする。
不審に思い凝視していると、突然二匹の龍は静かに首を動かし、こちらに視線を向けてこう言い放った。
「ここに定命の者が来るとは」
「驚いた。聞いてはいたが君の代だとは」
あちらとしても予想外の客人だったらしく、少し驚いている様子。
「……定命の者ぉ?なんじゃそら」
「あー……この子、そういう話し方が好きなんだ。適当に流してやってくれるかな」
エリアスの疑問に対して、赤い方の龍がそう答える。
……なんだろう、苦労人……じゃない、苦労龍の雰囲気がする。
「エンストークだ。あっちの赤い龍はプロトーン。私達の息子が迷惑をかけたようで、申し訳ない」
「あ、いえ、私達もエンホークさんにはお世話になってます……?」
青い方の龍、エンストークはそう言って首を軽く下げた。エンホークを息子と呼ぶということは、彼の両親か。
とりあえず失礼の無いようにと、こちらも社交辞令地味た言葉を返す。
なんだかぎくしゃくした挨拶を済ませると、改めてエンストークから話を切り出してきた。
「さて。ここまで来たということは、この先に進むつもりがあるということだな?」
その問いに、四人全員で肯定の意を示す。それを見てエンストークは話を続ける。
「私は、この先に進もうとする者に資格があるか否かを確認する門番をしている。
つまり、私と戦って……見事勝つことが出来れば進めるし、そうでなければお引き取り願う」
やはりそうなるのか。幼龍のエンホークにすら苦戦を強いられたのに、今度は成龍が二体か……
「……あっ、私は旦那だからここにいるだけだ。試練とか封印とかとは関係ない」
だから観戦してるよ、とはプロトーンの言葉。
良かった、それならばなんとか……なるのだろうか、それでも。
「ほぉほぉ。……やってやろうじゃねぇかこの野郎!成龍と戦えるなんてなぁ、楽しくなってきたぜおい!!」
そんな私の心配はどこ吹く風で、エリアスは既に臨戦態勢だった。
……まぁ、やるしかないのだろうし。私もやる気を出すとしよう。
覚悟を決めて、四人と一匹がそれぞれ配置につく。
前にヤキトとエリアス、後ろに私とアデリー。今日は他に誰もいないので、エンホークの時と同じといえば同じ布陣。
あの頃からどこまで強くなれたのか、試すには丁度よいだろうか。
そう思うと、妖精を呼ぶために持った魔晶石に込める力が自然と強くなる。
「なんか楽しそうだね、そこの彼は」
一方、これから自分の妻が殴り合いをするというのに、プロトーンは大変暢気な言葉を漏らしていた。
そんな締まらない空気の中で、私達にとって二度目のドラゴンバスティングが始まることとなった。
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