弐
さて、啖呵を切ったはいいものの……
あんな力を見せられた後だと、正直戦って勝てる相手なのかどうか。
そもそもまともに戦える相手なのかすらも怪しく思えてしまう。
「アデリー、どうかしましたか?」
そんなことを考えていたら、ユカお姉ちゃんに心配されてしまいました。
「……考え事だよ。どうやろうか、って……それだけ」
あんまり考え込んでも仕方が無いか、と思いつつそう返す。
無理しちゃダメですからね、と頭をぽんぽんされていると、私の言葉を聞いた
エリアスがこんな事を口にした。
「どうやろうかって、そんなもん簡単だろうよ。敵をぶっ潰して、無理だったら考えて、もしくは強くなって。んで敵をぶっ潰す。それで終わりなんだよ、大抵の物事は」
「まぁ……そうだな、一理ある」
「ぶっ潰すにも種類があるがな。社会的に、物理的に、精神的に……」
なんともパワフルな理論にヤキトも納得している。当たって砕けて、の精神かぁ。
勢いに任せて突っ走るのも、時にはありなのかな。
「もしくはフルコースを……とか」
「にゃはは!それもありだ!」
そう思って口走った言葉は、エリアスから太鼓判を貰えてしまった。
……さ、流石にちょっと冷静さが欠けているかもしれない。
普段の私、こんなこと言ってなかったし言うタイプじゃなかったよね。
「お前……考え方がエリアスに似てきていないか?」
「あ、アデリーが汚染されて……!?」
「おっと?俺が悪いみたいには言わんでくれよ?」
そしてエリアスはこの言われよう。
いや、彼が悪いとか、悪影響を受けたとか思ってはいない……
……こともないけど。
「相手が相手だし、冷静じゃないだけだと思う。うん」
そんな雑談の様な何かをしながら、久々の街の中、お城への道を行くのでした。
とりあえず、今は出来ることを頑張ろう。野蛮にならない程度に。
◇ ◇ ◇
「しかし、謁見だなんてどうしたんだ?唐突だな」
顔パスで城の門を抜け、ジャックに案内されながら玉座の間へと向かう。
「ちょっと魔神関連でな……面倒だぜ」
「そうか、複雑な事情があるんだな……」
まぁ頑張れよ、と告げて彼は元の仕事に戻っていった。
俺達は開けてもらった扉を抜けて、部屋の中に歩を進める。
……ところでジャックって誰だったっけ?記憶に無いんだが。
酔ってる間にでも知り合ったんかな。
「……まぁ」
「お久しぶりです、皆さん」
それはさておき。
謁見の間、二つ並んだ玉座から、二人の姫様が優しく微笑んで歓迎してくれた。
俺達も挨拶を……っと、そういえば敬語じゃないといかんな。
「お久しぶりです。ラフェンサ様、コークル様」
「またお二人とお会い出来て、嬉しい限りです」
俺に続いて、三人もそれぞれ挨拶をして跪く。
……うーん、動作はいいけど言葉遣いはやっぱり慣れない。
「楽になさってください。事情が……事情なのでしょう?」
「その……フェングのことですよね。一体何か……?」
形式ばった挨拶もそこそこに、早速姫様達の方から話を進めだす。
フェンが居らず、そして連絡も来ていない(と思う)事から、非常事態であると察しはついているみたいだ。
「えぇ、実はですね───」
それが分かっているので、俺も無駄話はせずに手早く要件を伝える。
……話し出してから思ったが、ヤキトに任せれば良かった。しんどい。
フェンに単独で動いて貰った事、その結果アン・リブレに捕まってしまった事。
それらを話し終えた頃には、二人の顔から笑みは消え、真剣なものになっていた。
フェンが危険な状況、というのもあるだろうが、それ以上に国の一大事でもあるので当然だろう。臣下の一人が敵に連れ去られてる訳だからな。
「……ラフェンサ、何か知らない?」
「黒水晶について思い当たる術はあります。 解除の術も、水晶さえ手に入ればどうにかなるものだったと記憶しています」
後で術の本を貸しますね、と言ってこちらの話はあっさり片付く。
「……それはさておいて。どうやってフェングを取り戻すのか、ですね」
が、本題はこっちだ。
解呪の手段があったところで、肝心の本人を連れてこられなければ意味がない。
「油断させて奪還する?……ないしは、アパスタークを渡してしまうか」
「なるほど。そして然る後に奪い返すと」
アデリーの案は確かに無難だが……いいんだろうか、と思って一応確認してみる。
「いいんです?使い壊される可能性だってあるんですぜ?」
「伝承によれば、あったところであまり役に立たないはずです。それに、あれ自体は我が国の秘宝という訳でもないですので」
「確かに、前フェンディル時代に四重の法を以って封印したのは建国王ですけどね」
ラフェンサ姫が言った後、コークル姫が付け足す。
「ノーブルエルフの魔法王の一人が作り上げた秘宝、と奴は言っていましたが」
「はい。しかし逆に、ノーブルエルフでなければ力を引き出せない、と」
ヤキトの質問にはラフェンサ姫がそう返す。
なんだ、つまりそんなに大事な物でもなかったのか。
そう思ったんだが、しかし依然姫達の顔は険しいまま。何か別の問題があるのか?
「しかし、その封印を解くためには……一つは私達で解くことができるのですが」
「残りの三つは厳しい、ということでしょうか?」
どうやら入手方法に難があるらしい。ユカリが詳細を尋ねてみる。
「いえ、残りの三つも何とか。ただ……」
「……心苦しいのですが、現状では私達が国を離れる訳にはいきません」
どうしたものか、と言って、二人揃って考え込む。
なるほど、確かにこんな状況で姫が城を留守にするのは不味い。
魔神共に知れ渡ったら、それこそ攻め入られれしまうだろうからな。
「……封印を解く、私達の権威を分けることはできます。 そうすれば4つ揃えることは可能です」
そうして少し悩んだ後、先にラフェンサ姫が再び口を開いた。
「ラフェンサ。その方法は……」
「危険は承知の上です。フェングがそうだったのですから、 お姉様も、私も、そうであるべきでしょう」
コークル姫が止めようとしたが、構わず最後まで言い切る。
打つ手があるにはあるが、姫様達を危険に晒さないといけないってことか……
「流石に危険なのは避けるべきでは?お二人がやるなら止めはしませんが……」
念の為確認を取るも、しかしラフェンサ姫は退く姿勢を見せない。首を横に振る。
それをコークル姫もまた、軽くため息を付き、そして諦めたようにこう言った。
「……覚悟を決めましょうか。かつて建国王が、王の権能を渡すために使っていた魔法装置があります」
「しかし、問題の装置がある遺跡に火を入れるには、王族が行かねばいけません」
なるほど、つまりその装置を起動させる為に遺跡へ皆で向かおう、と。
……あれ、それって姫様の護衛をしなきゃいけない流れか?
「……ご、護衛はお任せを」
隣でユカリが少し震えた声を出し、もう一つ隣のアデリーは遠い目をしている。
まぁ、姫の護衛なんて早々任されるもんじゃないしな。今回ばかりは仕方ない。
その手の仕事に慣れてる俺とヤキトが頑張るとしよう。
「私が命に代えてでもお護り致しましょう」
「……精一杯、護衛させていただきます」
ぎこちない女子二人に続いて、俺達も改めて一礼する。
それにしても、これまた随分と重要な任務を任されちまったな。
フェンとつるんでから、仕事のスケールが無限にでかくなり続けてる気がする。
最終的にどうなっちまうんだろうか。
「さて、行きましょうか」
「あまりフェングを待たせたくありませんしね」
そんな俺の思いは、姫様に届くこともなく。
玉座の後ろからいろいろと取り出して、早速出立の準備を始めているのだった。
……収納場所、そこなんだな。自室とか倉庫とかじゃ駄目だったんだろうか。
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