肆
洞窟に入ってすぐの寝床らしき場所から、さらに奥へ。
するとやがて、とても大きな扉が視界に映りました。サイズ的にエンホーク用かな?
「えーと、貰ったものはこっちの奥に置いてあるんだけど……」
「右の扉は?人のサイズをしているが」
エンホークが開けようとしている扉の反対側には、私達が普段目にするのと同じくらいの扉。
どう考えても彼には通れないと思うんだけど、なんのためにあるんだろう?
「右は例のアレだよ。入らないでね?……僕はそもそも入れないけど」
あ、やっぱ入れないんだ。……例のアレってつまり、秘宝かな。
「ほーん……あ?こいつぁ……」
そんな扉を見ていたエリアスが何かに気づいたようで、近くに寄ってみる。
「王城で見た模様か?……あー、だがなんか違ぇな………」
「ふむ?……これ、前フェンディルの……魔法文明時代のものですかね」
「ほう、そいつァ大層なもんだな。と言うかよく知ってたな?」
「えぇ、人族の歴史は結構調べたので」
ユカお姉ちゃんはそれが何かわかったみたい。さすが。
で、魔法文明時代のものとなると、かなり長い歴史のある一族の子みたいだ。
ご先祖様も含めると、一体何年前からここにいるんだろう?
「へぇー……ママかじーじなら何か知ってるかもしれないね。 僕はまだ生まれてないからわからないけど」
「代々守ってきたのか?」
「すくなくともじーじの頃にはそうだった、ってママは言ってた。 もっと前はわかんないなぁ……」
……それにしても、ママとかじーじとか。ちょいちょいかわいいなぁこの子。
「ま、今は考えても仕方ねぇ。そっちの扉を案内してくれや」
「それもそうだねー。よいしょっと」
これ以上のことはわからないので、今はお礼を受け取るとしましょう。
大きな扉を開けてもらい、物置らしき部屋へ。
私達が使えそうな装備なんかも置いてあるけど、それ以上に遊び道具らしきものが多い。
と言っても、それらは彼用のサイズの物なので、下手な装備品なんかより大きいんだけど。これで遊んでる所をちょっと見てみたいかも。
「この中から好きなのを持って行っていいよ。……あっ、僕の枕だけはだめね」
そんな物置と言うよりはおもちゃ箱のような山を掻き分け、
彼は装備品をある程度まとめて置いてくれました。
「安心しろ。持ってかねぇよ」
「うむ。安眠手段なら既にあるしな」
ヤキトの言うとおり、私達は結構寝付きが良いのです。
特に私は、ユカお姉ちゃんに抱かれているとぐっすりである。
……あれ、これあんまり大きな声で言えないやつ?
「これは……良い鎧だな。そちらの剣も捨てがたいが、こちらにしようか」
「私はこのリュックサックを。……可愛いですね、これ」
……まぁ、それはさておき。私も何を貰うか決めなくちゃ。
少し悩んで、消耗品を買い足す資金のために換金用の宝石や金等を貰うことにした。
私に使えそうな装備品はあんまりなかったしね。
そうして貰うものを決め終わったところで、エンホークが真剣なトーンでこんなことを言い出した。
「……ちょっと不安に思ったんだけど。なんで魔神どもはここのことを知ってたんだろうね?」
「ふむ……情報を流している人がいるかもしれない、くらいですかね」
「フェンディル王国も今、大変なことになっているしな」
ユカお姉ちゃんとヤキトがそう推理する。コ・クーレ伯爵以外にも内通者がいる、ってことか……
「……何かが、悪い方に進んでいる感じがするね。嫌な感じだ」
少し重たい空気の中、エリアスだけは笑ってこう返した。
「ハッハッハ!そんなもん、殴り殺してやりゃいいのさ!」
「キミが言うと説得力あるなぁ」
「だろう?いずれは運命だって殴り殺してやる。 だから悪い方に進んでもいいのさ!」
「怖いなぁ。敵にはしたくない」
私もエンホークと同意見です。
彼が味方で本当に良かったと思っている。色んな意味で。
「それで、キミたちはこれからどうするんだい?僕を止めに来ただけではないでしょ?」
「……何しに来たんだっけ?」
そしてひとしきり笑った後にこれである。……まぁ、ご愛嬌ということで。
「アレのことだろ」
「アレ?アレ……あ、アレね!」
「……絶対わかってないですよね?」
「そ、ソンナコトナイヨー。ワカッテルヨー」
目を泳がせるエリアスを、ユカお姉ちゃんがじとーっと見つめる。割と見慣れた光景。
「ははは……でも、例のアレはちょっとダメだね。アレ」
そんな私達を見て笑いつつも、返ってきたのは却下の一言。使っちゃいけないタイプのもの、ってことかな。
「ふむ、そうか……種を寄生させたやつについては?」
「それもなー……寝ている間にやられたっぽいから、詳しくは分からないんだよね。
でも、僕達みたいなのには効かないはずなんでしょ。普通は」
「はい、人族にしか効かないはずです」
「あんまりよろしくない何かがやったのかなぁ…… まぁ、追々分かることもあるかもしれないし。 何かあったらまた来てね、ってことで」
「だなぁ。その時はよろしく頼むわ」
結局、あまり有益な情報は得られなかった。エンホークも被害者だから、責めるわけにもいかないけどね。
話を切り上げて、貰ったものをまとめて洞窟を立ち去ろうとしたところで、エンホークに呼び止めらました。
「……あ、なんかすごい速度で馬車がこっちに向かってきてる気が」
馬車で、っていうとトマスさんかな?どうやって感じ取ったのかはわからないけど。
守護龍らしく、この一帯の状態を把握する力でもある……のかな。
「事が済んだから、迎えに来てくれてるのかもね」
「まったく、手回しの早いやつだ」
ま、それはいいとして。用も済んだことだし早めにここを出るとしましょう。
改めてエンホークに別れを告げた後、急ぎ足で村へと戻りました。
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