弐
「よっし、龍が来た時に備えて罠でも作っとくか。アデリー、手伝ってくれー」
「はーい!」
聞き込みはヤキトとユカリに任せて、俺は肉体労働をするとしよう。
龍を相手に真っ向勝負は分が悪すぎる、と流石の俺でも思う。
「アデリー……身の危険を感じたら、すぐ逃げるんですよ?」
「大丈夫だよ?ほら」
何故かユカリに注意喚起されたアデリーが、攻撃魔法の構えを取る。おいおい。
「うむ。構わずやってやれ」
ヤキトまでこれである。……なんだか最近、俺の信用が落ちている気がする。
一体俺が何をしたって言うんだ。
「何もしねえよ馬鹿。危機的状況でするかよ……」
「え。危機敵状況じゃなかったらやるの……?」
「そりゃあもう!……おいおい、じょーだんよ、じょーだん」
本当に冗談のつもりで言ったんだが、かなり本気で引いてるのでこれ以上は止めておこう。
魔法を撃たれたら困るし。下手をすると龍の炎よりも威力が高い気がする。
「んじゃ、行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃーい」
ユカリが手を振り、見送ってくれる。
「はーい、いってきまーす」
それに対してアデリーも笑顔で手を振り返す。こいつら仲いいなぁ。
……目が笑っていないところまで一緒じゃなくてもいいと思うけどなぁ。怖いよ。
◇ ◇ ◇
「多分、魔法的ナ手段デ、アノ体、乗ッ取ラレテイル。 デモンズシードデハナイハズダケド、似テイルヨウナ気ハスル」
「ふむ。魔法か魔神の力か……どっちでしょうか」
「デモンズシードならば、俺がなんとか出来そうなのだがな」
エリアス達が罠を作っている間、俺達は聞き込みをしていた。
わかっていたことだが、やはり何者か……まぁ魔神連中なのだろうが、細工を施された結果暴走してしまっている、という状態の様だ。
「幻獣相手にデモンズシード……魔神なら無理やり使えても不思議ではない、ですかね?」
ユカリがそう仮設を立てる。一般的に幻獣には効かないそうだが、特殊な手段を用いればあるいは、ということだろうか。
「その場合、通常通り解呪できると思うか?」
「うーん、かなり強力な魔力でやってる気がするので……龍も、中の魔神も倒す方が現実的ですかね」
「成程。エリアスが聞いたら喜びそうな作戦だ」
かく言う俺も分かりやすい作戦の方が好きだが。
しかし、龍と真正面から戦うことになるとは……
「……俺も何か用意しておくか」
いずれは小細工無しで戦ってみたいものだが、今回はそんな事を言っている余裕はないだろう。だとして、何を用意しようか。
フェンディルの城壁にも備え付けられていたバリスタの様な、誰でも使える物であれば村人にも加勢して貰えるだろうか─────
◇ ◇ ◇
───かくして対守護龍対策は順調に進む。
拘束用の罠、村人が援護するための簡易バリスタ、巣を偵察と、出来得る限りのことを済ませた。
そうして訪れた前日。月夜の下、それぞれが戦いの時を待つ───
「丁度満月の夜か……昂るなぁ、実に昂る。ふふ……ハハハ……!」
ある者は、種族の性を存分に振るわんとし───
「……この味、あまり栄養を取れていなさそうな気が」
「えっ……私の血の味、わかるの?」
「えぇ、まぁ。……この件が終わったら、何か美味しいものでも食べましょうか」
「……ケーキとか?」
「ケーキ。いいですね、一緒に食べに行きましょう」
ある者は、穏やかながらも決意を固め───
(……奴も、守護する者として心では泣いているのだろう)
「騎士神ザイアよ、彼の者に……そしてフェンにも、救いを」
ある者は、龍のため、遠くの仲間のために祈りを捧げ───
「……ハハハ……!」
「……うるさいのがいるし、【ホーリー・クレイドル】を使って寝るか」
───魔法によって安眠した。
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