されど旅人は龍と踊る
壱
「ここが例の村か」
ディザを発った翌日。俺達は無事に目的地───『神へのきざはし』の麓の村へ辿り着いていた。
道中特に障害や襲撃もなかったので、アノーシャグの読み通り、魔人達は一時撤退中なのだろう。
それなら帰る前に龍も止めていって欲しかったが。せめてもの嫌がらせか。
「マツ。オ前ラ 何者カ」
「ココ、俺タチノ村。ヨソ者入ル、許サナイ」
そんなことを考えつつ門に近づこうとすると、門衛の者が俺達の前に立ち塞がった。
だいぶ訛っているが、交易共通語だ。会話するのに問題はないだろう。
「紹介状は……ヤキト、お前が持ってたよな?」
「ああ。例の件で来た者だ」
アノーシャグに書いてもらった紹介状を取り出し、門衛に見せる。
これがないと入れてもらえないかもしれない、と言っていたことから察するに、基本的には外の者を入れないようにしているのだろう。
それが秘宝を守るためか、ただよそ者を好まない故にかは分からないが。
「ナニ?アノーシャグ、紹介状シタタメタノカ」
「ソレ、失礼シタ。スルト村長助ケタ、貴方タチカ。村長ノ家、案内スル。ツイテキテクレ」
書面を読んだ門衛二人は構えていた槍を降ろし、村の中へと歩いて行く。警戒は解いてもらえたようだ。
「ああ。頼む」
俺達も彼らに続き、門をくぐることにした。
◇ ◇ ◇
村のあちこちから、私たちに視線が向けられているのを感じる。そのどれもがあまりいい感情を込められていないものだ。
門衛の様子から察するに、他所者はあまり歓迎しない方針なのか。
……それとも私がラミアの姿のままだからだろうか。こんなご時世とは言え、人族の村に入るのであれば人の姿になっておくべきだったか。
「んっんー……酷いもんだ」
私が体を縮こめている一方で、視線を気にもしていないエリアス。
彼の視線の先には───いや、そちらを見るまでもないことか。
村のあちこちに炎で焼かれた跡や、巨大な爪痕のようなものが見られる。視界に入れない方が難しいほどの数だ。
言うまでもなく、どれも龍が暴れたことによるものだろう。
これ程手酷くやられているとなると、村人にも被害が及んでいるだろうか。
「怪我をしている人もいるでしょうし、そちらも治してあげたいところですね」
「後で手伝って回ろうか。私達ならなんとかできるだろうし」
アデリーと二人、そう約束しつつしばらく歩いたところで、他よりやや大きな家の前に着いた。
「ココ、村長ノ家。村長、貴方ガタ待ッテル。 ……怪我人、少ナクナイ。龍モ、日々暴レカタガ酷クナッテル」
「おーけい、しっかり龍は鎮めるよ。任せてくれや」
案内を終えた門衛達に、エリアスがそう言って別れを告げる。
普段は悩みの種である軽口も、こういう時だととても頼もしく聞こえるものだ。
「さて……アノーシャグの紹介で来た者だ。村長殿はいるか」
そして門衛達が去った後、ヤキトが扉をノックした。
いよいよ本題だ。龍の相手が、私達で務まるといいのだけれど。
◇ ◇ ◇
「いやはや、ご足労ありがとうございます」
「なに、内容が内容だからな」
「ですね。私達にとっても、無視できることじゃないですから」
村長───ダンさんに案内され、広めの部屋で席に着く。
「恐れ入ります。事実、私達ではどうすることも……」
「ひとまず、何があったか聞かせてくれないか?」
「だな。もう一度確認させて貰いたい」
早速状況報告を求める。急を要する事態なので、のんびり歓談している時間はない。
エリアスとヤキトが急かすと、村長はすぐに説明を始めてくれた。
「……では。守護龍が暴れている、という話はご存知でしたね?」
アン・リブレが話していたもののことだろう。ダンさんの言葉にこくりと頷く。
「かの龍……エンホークは普段近くの洞窟に住んでいて、人里に来ることはほとんどないのですが…… 一週間前、唐突に村にやって来たのです。普段の子供っぽいながらも理性的な態度とは異なり、破壊の化身かのように暴れまわり、しばらくの後に去っていきました」
「対話出来る……いや、出来たのか?」
「ええ、普段ならば。しかし、あれは理性を失ったかのようでした。 そして、二日開けて三日目、そしてつい昨日にもやってきて、同様に。 徐々に暴れる時間も長くなっているようです。これまでの間隔だと……次は明後日でしょうか」
日に日に凶暴化が進んでいる、ということは何かに侵蝕されている……のだろうか。
アン・リブレのあの言葉も考えると、ただ気が狂っただけという訳ではなさそうだ。
「死人は?」
「今のところは。最初のうちは無人の建物等に対して攻撃を加えていたのです。……しかし、徐々に家屋等を攻撃するようになってきています」
「そうか。……村人が無事ならなによりだ」
「最初は理性が残ってたってことかねぇ? まぁ、原因が分からない以上はぶっ飛ばすしかねぇんだけどよ……」
「おそらく操られているか何かだと思いますが……情報が足りてないですからね」
「直接対応していた村の者であれば、もう少し何か話せるかもしれませぬ。 私は遠くから見ていたのみでしたから……」
ダンさんはそう言って、申し訳なさそうに頭を下げる。
今でこそ身体の調子は大丈夫そうだが、戻ってきてすぐは安静にしていたのだろう。それを責める訳にはいかない。
「聞き込みしろって訳な。了解だぜ」
「あ、その前に……守護龍とは、具体的にどのような龍なのですか?」
「まだ龍としては若い、炎龍ですな」
龍というのは、歳によってその強さが大きく変わる。
成龍にもなると、高位の魔法を当然のように扱う。そうでなくて助かった。
「ふむ……ドラゴネット、ですかね?」
「本物の龍かぁ……ちょっと厳しいかもね」
もっとも、それでも充分強いのが龍という種族だ。
それを止めるとなると、さてどうしたものか。
話を聞いてくれない以上は……力づくで押さえつける、しかないか。
「ひとつ聞くが、殺しちゃいかんよな?」
「……できれば」
エリアスの言いたいことは分からなくないが、それをしてしまうと秘宝を守る者がいなくなってしまう。
そして、魔神からすればそれが最も望ましい展開なのだろう。
それだけは避けなければならないか。
「……何にせよ情報が必要だ。村の者に聞いて回るとしよう」
まあとにかく、やれるだけのことをやってみるしかない。
まずは村人達に話を聞いて周るべく、ダンさんにお礼を言って、私達は家を出た。
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