「情報収集が必要だったとはいえ、済まねぇなぁ。いろいろ手伝ってもらって」

「いや、こちらも魔神たちの情報が必要だったからな」

「そういうことです。気にしないでください」

 屋敷への襲撃から数日後。町の復興も進んだところで、私達はディザを発つつもりでいた。

「とりあえずはセフィリア方面にいくか?」

「明確に目的地が決まってませんし、そうするしかないですかね……」

 今現在得られている情報では、この程度の方針しか決められないのだが。

 行った先でより重要な情報を得られたら、そちらに舵を切ればいいだろうか───

 などと思っていたら、不意に部屋の扉が叩かれた。

 なにやら慌てているような、そんな雰囲気のあるノックだ。

「はーい!なんでござんしょ」

「ごめんください!フェンの旦那はいらっしゃいますか?」

「どうした、騒々しいぞ」

 エリアスが扉を開けると、トマスさんが慌しい様子で入ってきた。

 何があったのか、と訊ねると、言いにくそうにしながらこう告げてくる。

「そ、その……フェンディル本国からの急ぎの連絡があり……フェンの旦那を至急本国に戻せと」

「ど、どういうことです?」

 突然の要請に、呼ばれたフェンさん本人も理解が追いついていないようだ。

 本国から、と言うことは姫様直々に帰還の指示を出した、という訳だが……

「また唐突だな。そりゃどうして?」

「……アノーシャグの旦那、ちょっと」

 理由の説明をするかと思ったら、こちらに聞こえないようにひそひそ話を始めてしまった。

 本人の面前で行うだなんて、よっぽどの理由だろうか。

「……は?……いや、まぁいいや、後で話す。重要なことだ」

 私の横でエリアスが聞き耳を立てているので、内容は筒抜けなのだが───

「ごめんくだせぇ、旦那!」

「どうしたジョージ。騒々しいぞ」

 しかし悲しいことに、あまりよろしくない知らせは立て続けにくるもので。

 開かれたままの扉に、これまた慌てた様子のレジスタンスの者がやってくる。

「へぇ、すいやせん。しかしダンの旦那から、至急戦士を送り込んでくれとの話が。

 なんでも、村の近くの祠を守る守護龍が唐突に暴れだしたんだとか」

 そして、彼が知らせてくれた内容もまた、無視できるものではなかった。


 ◇ ◇ ◇


「……まさか、あの時のか!」

 守護龍、と聞いてヤキトが声を上げる。

 そう言えばアン・リブレのやつもどうこう言ってた気がする。まさかもう行動に?

「大方、魔神共の細工じゃねぇのか?」

「間違いないだろうね……まいったね」

「……守護龍、か。うちが出せる戦力じゃ何にもならんな……参ったな」

 アノーシャグさんのこの様子だと、レジスタンスの人達を動かす訳にもいかなそう。

 その上フェンさんは一度戻らなきゃいけないし……どうしよう。

 どうすべきか悩んでいたところで、エリアスがフェンさんにこんなことを言った。

「あー、あっちの話聞こえちまったんだけどよ……フェン、姫様達が負傷したらしい」

「っ、姫様が!?」

「リーリゥムが陥落したんだと。必ず急ぎになるし、護衛は必要だろうよ」

「で、戦力を分けなければならないと」

「ああ。龍を鎮めないと村の秘宝が取られちまって、結局魔神に有利が渡る可能性があるからだ」

 すごい、エリアスが真面目な話をしてる。

 ……じゃなかった。フェンさんの護衛か、うーん……

「……私ならどう、かな?」

 そっと手を挙げて、一応立候補してみる。

 ヤキトかエリアスが欠けると前線維持が厳しくなってしまうので、私達の中から出るなら私かユカお姉ちゃんのどちらかでしょう。

「相性は悪くはないですが……」

「そうなると、三人で龍を止めなければなりませんね……」

「そうだな……アノーシャグ、フェンを王都まで護衛する戦力はあるか?」

 ヤキトがアノーシャグさんに交渉してみる。もしフェンさんを任せられるのならとてもありがたいです。

「道中……ヴァルプレぐらいまでだったらなんとかなるはずだ」

 数秒ほど考える仕草をして、このような回答。

 最後まで、とはいかないみたいだけど。それでも充分でしょう。

「ここらの護衛はどうなるよ?まだ攻めてくる可能性もあるだろ?」

「アン・リブレが退いてるし、そもそも村長から情報を聞き出すのがここを拠点にしていた理由だろう。とすれば、しばらくは大丈夫なはずだ」

「そうか、では……」

「あぁ。トマス、手配を頼むぞ」

「……よろしくお願いします」

 フェンさんが一礼。トマスさんがそれに任されやした、と返事。

 これで私達は龍に専念できそう、かな。終わったらまたお礼を言わなくちゃ。

 方針が決まった所で、フェンさんがレジスタンス達と部屋を出ようとして───

「……きっちり姫様を守って、戻ってきますから。待っててくださいね?」

 にこっ、と笑いながらそんなことを言った。かわいい。

 ……おっと、口に出るところだった。

「俺達も片付け次第そちらに向かおう。……無事でいてくれよ」

「頼りにしています。……でも、出来れば早めに助けに来てください」

 最後にヤキトとそうやり取りをして、今度こそ部屋を出ました。さて……

「俺達も向かうぞ」

「そうだね。こっちはこっちで、手早く終わらせよう」

 私達も急がなくちゃ、と思ったけど、ヤキトの表情がすこし暗い気がする。

 やっぱり不安なのかな。フェンさん側も、私達側も。

「何くよくよしてるんですか」

 そんなヤキトに、ユカお姉ちゃんがお叱りの言葉を投げて。

「リーダーだろ?しっかり頼むぜ!」

 続いてエリアスに、肩をばしっと叩かれると。

 彼はいつもの頼もしい顔に戻っていました。

「……悪い、少しな。お前たちも準備はいいか」

「問題なしだ」

「いつでも」

「ん、私も」

 そして、全員で手を合わせ───


「みんな───また五人で飯を食いに、ここへ戻ってくるぞ!!」


 ───龍を止めるべく、東へ出発したのでした。

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