山羊を以て牛に抗う
壱
「ということで。まずはディザを目指します」
私達の旅の最初の目的地は、ディザに決定しました。
その理由について、フェンさん曰く───
『魔神が人間と手を組み、人間の思うがままに動くでしょうか?それも、今ほどの統制を維持したまま。……恐らくは、より上位の魔神とアン・リブレは手を組んでいます。それが誰なのかを調査する、あるいは本人から聞き出すことを最初の目標としたいのです。幸い、ディザにはレジスタンスが居ますので、彼らに協力してもらうことも可能でしょう』
───とのこと。旅に出る、なんて言い出すだけあって、その辺りの情報はしっかり調べてるね。
そんなわけでフェンさん先導のもと、東へ向かって歩き出し。
途中で獣とか下級の魔神とかに襲われつつも、無事にディザに到着。
さっそくレジスタンスの拠点である地下遺跡にお邪魔しまして、リーダーの方を呼んでもらうようお願いし、待つこと数分。大柄な人間の男性がやってきました。
「お前たちがフェンディルから来てくれたという冒険者か。 ……なるほど、かなりできるようだ。俺はアノーシャグ、よろしく」
「何卒よろしくお願いします。……さっそくで申し訳ないのですが、お部屋をお借りできますか?」
フェンさんが手をとり、握手。そのままお部屋を貸してもらうための交渉も始めてくれました。
現状のリーダーは彼なので、この辺はおまかせしていくつもりではあったけど。何というか慣れてるよね。
流石は商家の一人息子さんです。きっと小さい頃から仕込まれているのでしょう。
「ああ、部屋はいくらでもあるから構わねぇが……いくつ欲しい?」
「そうですね、男女別室で二つあれば───」
そう感心していたところ、フェンさんが突然言葉を詰まらせました。
なんだか都合が悪いことがありそうな顔をしているけど。どうしたんだろう?
一度目線を逸らしてから、改めてアノーシャグさんにお願いします。
「……あー、ごめんなさい。部屋の準備は私がやるので、もう一つ頂けませんか?」
「ん?どうしたよ、フェン」
少し不自然な振る舞いを見て、エリアスが問いかけます。私も正直理由が気になる。
「えーと、その……すみません、移動中もあれだったと思うのですが、その……寝相が……」
「はぁ、まぁそうしたいってなら構わねぇがよ……」
……んー?寝相が悪いなんてこと、あったかな?
エリアスは納得したみたいだけど、私には何か違う理由があるように思えます。
「この旅の発案者は彼だからな。報告書を書いたりするのに、一人で集中できる場が必要だろう。俺は、その責任を果たそうとする意志を尊重したい」
訝しむ私に牽制する様に、ヤキトはそう言って一人で部屋を取ることを勧めました。
むぅ。こう言われてしまっては、この場で理由を追求する訳にはいかないかな。
「それじゃあ三部屋準備させよう。その間に食事でもどうだ?風呂も用意出来るが」
「あー、じゃあ先に風呂頼みますわ。さすがに疲れた……」
「私も。もうクタクタですね……」
フェンさんの話はさておかれて、エリアスとユカお姉ちゃんがお風呂という単語に飛びつきました。
道中大した敵ではなかったとはいえ戦闘も何度かあったし、疲れがたまっているのは当然です。
何より、ちゃんとしたお風呂に入れる機会ってあんまりないし。私も入りたい。
「わかった。おいトマス、案内してやれ」
「へい!客人がた、こちらでやんす」
「お風呂なんて久しぶりだねー。最近、身体を拭くだけだったもの」
さっそくみんなでトマスさんに付いていこう、とする中、またもフェンさんが何か考えているようで、動き出すのが遅れていました。
「ん?どうした、フェン」
「あ、いえ……ちょっとやることがあるので、私はあとで入りますね?」
「おぉ、じゃあやること終わったら一緒に入ろうぜ」
「えっ、あー、えっと、その……」
そして再びの不審な言動。ますます怪しい。
(なんか大変そうですね)
(あからさまに様子が変じゃない?ユカお姉ちゃん、心当たりある?)
(いえ、特には……)
ユカお姉ちゃんも気になっているみたいだけど、しかし思い当たる節はなし。
むぅ、やっぱり本人に聞いてみるべきかな───
「───あ」
そういえば、伯爵との戦いの前にラグナカングが言っていた言葉。
『美味そうな小娘が二人もおるわ……けひひ』
あれ、私とユカお姉ちゃんのことを言っているのだと思っていたけど……よく考えると、たぶん違う。
というのも、魔神の生贄に最も良いとされているのは穢れのない乙女だからです。
お姉ちゃんはラミアなので、それなりに穢れを持っている。ということはこれに含まれていない、はず。
となると残り三人。エリアス、ヤキト、そしてフェンさんな訳だけど。
……流石に前二人を女の子と間違える、のは無理があるよね?
「ふむ、さっき着いたところだからな。報告書を書くんだろう。あとでゆっくり入るといい」
「えっ、ええ。忘れたりする前に、こう、ばーって書いてから……ですね。ありがとうございます!」
などと考えているうちに、フェンさんがお風呂とは逆の方向へ行ってしまいました。
うーん、とりあえずはこの場にいる三人に聞いてみることにしようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます