山羊を以て牛に抗う

「ということで。まずはディザを目指します」


 私達の旅の最初の目的地は、ディザに決定しました。

 その理由について、フェンさん曰く───


『魔神が人間と手を組み、人間の思うがままに動くでしょうか?それも、今ほどの統制を維持したまま。……恐らくは、より上位の魔神とアン・リブレは手を組んでいます。それが誰なのかを調査する、あるいは本人から聞き出すことを最初の目標としたいのです。幸い、ディザにはレジスタンスが居ますので、彼らに協力してもらうことも可能でしょう』


 ───とのこと。旅に出る、なんて言い出すだけあって、その辺りの情報はしっかり調べてるね。

 そんなわけでフェンさん先導のもと、東へ向かって歩き出し。

 途中で獣とか下級の魔神とかに襲われつつも、無事にディザに到着。

 さっそくレジスタンスの拠点である地下遺跡にお邪魔しまして、リーダーの方を呼んでもらうようお願いし、待つこと数分。大柄な人間の男性がやってきました。

「お前たちがフェンディルから来てくれたという冒険者か。 ……なるほど、かなりできるようだ。俺はアノーシャグ、よろしく」

「何卒よろしくお願いします。……さっそくで申し訳ないのですが、お部屋をお借りできますか?」

 フェンさんが手をとり、握手。そのままお部屋を貸してもらうための交渉も始めてくれました。

 現状のリーダーは彼なので、この辺はおまかせしていくつもりではあったけど。何というか慣れてるよね。

 流石は商家の一人息子さんです。きっと小さい頃から仕込まれているのでしょう。

「ああ、部屋はいくらでもあるから構わねぇが……いくつ欲しい?」

「そうですね、男女別室で二つあれば───」

 そう感心していたところ、フェンさんが突然言葉を詰まらせました。

 なんだか都合が悪いことがありそうな顔をしているけど。どうしたんだろう?

 一度目線を逸らしてから、改めてアノーシャグさんにお願いします。

「……あー、ごめんなさい。部屋の準備は私がやるので、もう一つ頂けませんか?」

「ん?どうしたよ、フェン」

 少し不自然な振る舞いを見て、エリアスが問いかけます。私も正直理由が気になる。

「えーと、その……すみません、移動中もあれだったと思うのですが、その……寝相が……」

「はぁ、まぁそうしたいってなら構わねぇがよ……」

 ……んー?寝相が悪いなんてこと、あったかな?

 エリアスは納得したみたいだけど、私には何か違う理由があるように思えます。

「この旅の発案者は彼だからな。報告書を書いたりするのに、一人で集中できる場が必要だろう。俺は、その責任を果たそうとする意志を尊重したい」

 訝しむ私に牽制する様に、ヤキトはそう言って一人で部屋を取ることを勧めました。

 むぅ。こう言われてしまっては、この場で理由を追求する訳にはいかないかな。

「それじゃあ三部屋準備させよう。その間に食事でもどうだ?風呂も用意出来るが」

「あー、じゃあ先に風呂頼みますわ。さすがに疲れた……」

「私も。もうクタクタですね……」

 フェンさんの話はさておかれて、エリアスとユカお姉ちゃんがお風呂という単語に飛びつきました。

 道中大した敵ではなかったとはいえ戦闘も何度かあったし、疲れがたまっているのは当然です。

 何より、ちゃんとしたお風呂に入れる機会ってあんまりないし。私も入りたい。

「わかった。おいトマス、案内してやれ」

「へい!客人がた、こちらでやんす」

「お風呂なんて久しぶりだねー。最近、身体を拭くだけだったもの」

 さっそくみんなでトマスさんに付いていこう、とする中、またもフェンさんが何か考えているようで、動き出すのが遅れていました。

「ん?どうした、フェン」

「あ、いえ……ちょっとやることがあるので、私はあとで入りますね?」

「おぉ、じゃあやること終わったら一緒に入ろうぜ」

「えっ、あー、えっと、その……」

 そして再びの不審な言動。ますます怪しい。

(なんか大変そうですね)

(あからさまに様子が変じゃない?ユカお姉ちゃん、心当たりある?)

(いえ、特には……)

 ユカお姉ちゃんも気になっているみたいだけど、しかし思い当たる節はなし。

 むぅ、やっぱり本人に聞いてみるべきかな───

「───あ」

 そういえば、伯爵との戦いの前にラグナカングが言っていた言葉。


『美味そうな小娘が二人もおるわ……けひひ』


 あれ、私とユカお姉ちゃんのことを言っているのだと思っていたけど……よく考えると、たぶん違う。

 というのも、魔神の生贄に最も良いとされているのはだからです。

 お姉ちゃんはラミアなので、それなりに穢れを持っている。ということはこれに含まれていない、はず。

 となると残り三人。エリアス、ヤキト、そしてフェンさんな訳だけど。

 ……流石に前二人を女の子と間違える、のは無理があるよね?

「ふむ、さっき着いたところだからな。報告書を書くんだろう。あとでゆっくり入るといい」

「えっ、ええ。忘れたりする前に、こう、ばーって書いてから……ですね。ありがとうございます!」

 などと考えているうちに、フェンさんがお風呂とは逆の方向へ行ってしまいました。

 うーん、とりあえずはこの場にいる三人に聞いてみることにしようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る