第3話 Innocent




 翌日、俺が学校に行くとすかさず例の事件のことを訊かれた。センセーショナルかつ俺らと同い年の凶悪犯罪として、テレビのみならずネットでも若者の話題としてトレンドになっているほどだ。

 そして、ネットではすでに加害者――晴人の実名と顔写真が公開されていた。さすが、といったところだろうか。自分のTwitterにも流れてきた晴人の顔写真は、中学の卒業アルバムのものであった。誰だよ、流失させた奴。やりそうなやつらは、何人か心当たりがあるが。

 それと同時に、被害者二人の個人情報もおおっぴらに公開されていた。ナイフで刺され重傷を負ったとはいえ、日常的にひどいいじめを与えていたこと、さらに晴人の行為が殺人「未遂」で終わったところから、見るも無残な大バッシングを受けていた。そのため晴人のほうに同情する声も多く、むしろ「被害者」であると印象付けられている。

 そして、当然のごとくクラスの奴らは根掘り葉掘り訊いてきた。俺が同じ中学校だったとあっさりいうと、「おー」と歓声が上がったくらいだ。

「どんな奴だった?」「どんくらい仲良かったの?」「虫とか殺してた?」「好きな女子とかって聞いてる?」

 俺はそれらの質問に、「さあ」「知らない」を使い分けて答えた。いつの間にか席の周りのは大きな輪ができていて、なんとか晴人の情報を知りえたいようであった。

 誰かが訊いた。「中学のときもいじめとかあったの?」

 瞬間的に、口を開けなかった。昨日の達也の苦悩した表情が浮かぶ。


「知らないや」


 やがて固まってた円も徐々に崩れ始め、俺は複雑なため息を吐いた。




     ・   ・   ・


 今日は部活がないということで、俺はそそくさと帰路に就く。ほかの部活の連中は飯に行くらしいが、丁重にお断りしておいた。向こうも、状況を察してくれたのか、無理には誘ってこなかった。

 学校の最寄り駅に到着し、ホームに降り立つ。俺はふと目を上げた。誰かにじっと見られているような気がしたからだ。まさか。でも、「中学時代、少年Aと仲が良かった奴」とか書きだされて、自分の顔写真が炙り出される可能性もあるのだ。

 急に、背中がぞぞっとしてきた。

 不安を消すように、スマホを手にして、Twitterを開く。

 通知の欄にを見て、俺はぎょっと目を見開いた。今まで誰からも貰えることのなかったダイレクトメール。それが、わずか半日もたたずに100件を超えていた。


 な、なんで……。俺はそっと、一つのメールを開く。


『これ、あなたですよね?』


 これって――こわごわと、付属されていたURLをタップする。


「ひっ」


 短い悲鳴を上げた。約2年前に撮られ、不愛想な表情を浮かべた俺の顔が写っていた。すぐに、削除ボタンを連打する。指に画面が当たり、カチカチと音が響く。


 血の気が引いた。何も思考ができなかった。次に来ていたメールを、震える人指し指で開いていく。


『あなたが中学時代にいじめていた人ですか?』


 これも――。


『石見晴人くんをいじめていたんですよね、佐藤雄介さん』『このまま逃げるつもりじゃないですよね』『住所特定したよ、はいこれでしょ』『警察に行って、謝ったらどうなですか』『警察、早くこいつを逮捕しろ』『ハルトくんかわいそう……こんなキモ男に人生を狂わされて……』『死ね』


『死んで詫びろ!!!』


「うわああああああああああ!!!」


 俺はありったけの声で叫んだ。アカウントを削除したのと、駅員が駆け寄ってくるのはほぼ同時だった。



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