第5話 鍛冶師の鍛冶業ときどき珍客万歳

『ごめんよー、たのもー!』


 ハスキーで、かわいらしい少女の声が店先からキルロの耳に届く。汗を拭いながら、作業の手を止め、店先へ向かうため腰を上げた。


「お嬢ちゃん、どうした?」


 三つ編み赤毛、丸顔だがかわいい顔立ちの少女とおぼしき人物が、キルロを上目使いで見つめていた。

 身長は150Mcくらいキノと同じくらいだろうか。

 紫がかった黒色の魔術師用のローブを身に付け、身長とは釣り合わない長い杖を右手に携えていた。 

 

 魔女ごっこしている少女? 


 そんな形容詞が一番しっくり来る様相をしていた。


「うん? あのよ、あのよ。ヌシがここの店長なのか?」

「ああ、そうだが……お嬢ちゃん、ここ鍛冶屋だぞ? 来るところ間違ってないか?」


 少女には縁のないお店トップ5に入るだろう自負はある。

 キルロの頭の中に『?』マークが踊っていた。


「はぁ? そこに鍛冶屋って書いてあろうが」


 そんな事はわかりきっているっと言わんばかり、その少女とおぼしき人物は、看板を指差した。


「あのよ、あのよ。ヌシなんか勘違いしてそうだが、こっちは19だぞ。ガキじゃねえぞ、成人して4年も経ってるんだからな」

「ぇっ!? オレとタメ?」


 そう言われ、キルロは改めてその少女を覗き見た。

  

 あ!


「あんた、ドワーフか?!」


 魔術師のローブに、すっかり騙された。

 

 ドワーフが魔術師マジシャンなわけないと、選択肢の中Kらドワーフの文字を消してしまっていた。

 

 あれ? でもドワーフって魔術量少ないんじゃかったけ??

 魔術師マジシャンのドワーフなんていたっけ?

 なんだか余計に混乱してきたぞ。


「見ればわかるだろうが。ヌシは、バカなのか」


 呆れ顔で言い放たれ、キルロはぐぅの音も出ない。

 

「いやぁ、すまなかったよ。で、ウチになんの用だ?」

「あのよ、あのよ。鍛冶屋に来て鍛冶以外の事頼むやついるのか?」


 あぁ⋯⋯若干面倒くさい感じになってきた。


「ま、そうだな。防具かなんか入り用か?」

「こいつをよう、殴れるようにしてくれないか」


 握り締めている、長く過ぎて持て余し気味の杖を、カウンターへと置いた。

 

 堅くてかなりいい素材を使っているな、魔術具としても優秀そうだ。いい杖だ。

 杖? 杖だよな。

 うん? それを殴れるように??


「ドワーフなんだから、殴りたければ、戦鎚ウォーハンマーとかにすればいいんじゃないのか?」

「はぁ~?! どこの世界の魔術師マジシャンが、戦鎚ウォーハンマー担いでるんだ? ヌシはホントにバカなのか?」


 目の前のドワーフから、ため息まじりの本気のダメ出しを、キルロは食らう。


「あのよ、あのよ。だからよ、魔術師マジシャン用の殴れる魔法杖を作って欲しいんよ」


 と言って、ドワーフは金貨の入った袋をドンとカウンターへ置いた。


「5万ミルドあるんよ」

「やりましょう。お嬢様」


 キルロは、食い気味に即断即決。 


 とりあえず身長から杖の長さの適正値だけ測り、一週間後のお渡しということで、ドワーフから杖を預かった。


 さて、どうしたものか。

 この杖も相当なモノだけよな。


 と、キルロは、軽くその杖を振りながら思考を巡らす。

 

 ドワーフには軽過ぎるかな? 

 杖の形状を残しつつハンマー系か、ハルバート風の短槍にするか………。

 少し長めに切って、後衛からでも殴りやすくしてもいいが、長めでいくなら、先を重めにして、遠心力で破壊力上げてもいいのか。ドワーフの力なら、重めの方が取り回しが良さそうだしな。

  先端に取り付けるハンマー部の中心を、重めの鉄鉱石にして、その周りを硬めのハイミスリルで覆えば、全体のバランス取れるんじゃないか。

 後はデザインで杖らしさを失わないようにしてと。

 お! そうだ。こいつがあったな。

 魔術の補助として、この間のコーラリウムを使おう。丸く加工して、柄にでも取り付けよう。

 ハンマーの部分を、出来るだけ小ぶりにすれば杖と言い張れる………はず。

 つかこんな難題これ以上は無理。

 後はあのドワーフっ娘に、杖と思い込んで貰うしかない。


「さてと」


 作るものが決まった後は実行あるのみ、キルロは作業場へと戻り、早速取り掛かった。

 杖を切り取り、長さを調整する。

 ゴトンと切り取られ落ちた切れ端を手に取り、キルロはマジマジとそれを眺めていた。


■□■□


『ごめんよー、店長! 来たぞー!』


 店先から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「いらっしゃい、出来てるぞ」

「そうか、そうか」


 ドワーフの娘は、キルロの言葉に満面の笑みをたたえた。

 キルロは、出来上がった杖のようなハンマーを、カウンタの上に置く。

 小ぶりな杖の先に小さめのハンマーが付いており、ハンマーの逆側は爪状の短い剣先を携えていた。

 柄の部分には、コーラリウムを装飾代わりにあしらい完成した魔法杖(らしきもの)をドワーフの娘は手に取った。

 その杖を、いろいろな角度から眺めたり、振ったりして確認すると、満足したのか、あらためて満面の笑みを浮かべる。

 

 作った甲斐があった。

 

 その笑顔は、鍛冶師冥利に尽きる嬉しい瞬間だ。


「ヌシやるな! ギルド経由で発注しても、うんともすんともなかったんよ」

「そうなのか? じゃ、今後ともご贔屓にしてくれよ」


 キルロはそう言って、カウンターの下からコトリと、何かを取り出した。


「こいつはオマケだ。持っててくれよ」


 杖の切れ端を使った、小さな小さな戦斧をドワーフの娘に渡した。


「この杖ってワザものだろ? 切れ端が、もったいなかったんで戦斧にしたよ。杖だと接近戦じゃ使い勝手悪いからな。こっちの戦斧にもコーラリウム使っているから身に付けておけば、魔力の補助になるぞ」

「おおぉーすまんの! 嬉しいぞ!」

 

 ドワーフの娘は、今にも躍り出しそうなくらい喜んだ。


「とりあえず、あんた魔力多くないんだ無理するなよ。そんで、死ぬな。客が減るのは困るからな」


 と、キルロは真顔で付け加えた。

 

「わかったよ」


 と笑顔で返事をして、ドワーフの娘は店を後にした。


■□■□


『店主!』


 店先からの声で、キルロは作業の手を止めた。

 スラっとした美丈夫のいかにもエルフという男性が、立っていた。肩まで伸びる緑色の艶やかな髪に切れ長の目、整った鼻筋はその美しさを後押している。


「どうも、何か入り用で?」

「盾が欲しいのだが」

「篭手にはめる小盾か何かで?」

「いや、大盾が欲しい。前衛職ヴァンガードで使えるやつだ」


  

 へ? 今なんて?

 つか、エルフって大盾扱えるの?

 前衛職?? エルフが前衛??

 

 キルロの頭の中で、再び『?』が踊り始めた。


 

 

「ここに4万ミルドある」

「やりましょう」


 そこはもちろん、食い気味に即断即決である。

 

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