第12話 解魔の儀式 異世界のお風呂1

 セロ洋服モードをしっかりと着た後、カレンは部屋を出て一階のシグの元に向かった。


 先程、混乱のあまり咄嗟に吐いた言葉は、命の危険から助けてくれ、更に部屋まで貸してくれた恩人に対して余りにも失礼な態度だったと感じ、謝罪をしようと思ったからだった。


 シグは一階のリビングの隣にある工房にいた。カレンが見つけた時、彼はちょうど金属の歯車を拡大鏡で見ているところだった。何かの機械の部品だろう。


「シグさん。さっきはごめんなさい。

 混乱して心にも無い事を言ってしまいました」


「気にするな。俺は生涯を妻に捧げている。

 お前の裸を見た所でなんとも思わん。

 ……はずなんだが、正直な所何故か目が離せなかった。此方こそすまなかった。」


 シグは巻き込まれただけであり、どう考えてもカレンが悪いのにも関わらず謝ってくるシグを見て、カレンは目の前の恩人の人の良さを感じていた。


 暫くお互いに無言でいたが、カレンは沈黙に気まずさを覚え口を開く。


「シグさんは何のお仕事をしてるんですか? 」


「俺は魔技師まぎしといって魔法仕掛けの道具を作る仕事をしている。

 お前を助けた時に使ったのは魔機マキナといって、俺が作った魔法が込められた武器だ」


 シグが言うにはこの世界には魔法が存在しているとのことだ。使えるかどうかは個人が生まれもって受けている精霊の加護の大きさにより、シグは大きくはないが精霊の加護を受けているらしく、魔法を物に宿して魔機マキナを作り生計を立てているのだそうだ。


「そうだ、お前も魔法の素質を確かめに行くか? こちらの世界で生きていくなら見ておいて損はないだろう。

 それに転道者は強力な精霊の加護を受けていることが多いらしいからな。それくらいなら付き合ってやる。

 あと、身を清めるために大きな風呂にも入れるぞ」


 今朝から、さんざん歩き回り汚れた身体を何とかしたいと思っていたカレンにとって、魔法の素質どうこうよりも風呂に入ることが出来るということが魅力的だった。どたばたして忘れていたが、昨日盗賊に首辺りを舐められていることも思い出し、カレンの中で風呂への欲求は極限に達している。


「お風呂入れるんですか?! 是非とも連れていってください!!」


 カレンの大きな声にシグが驚く。


「お前、風呂に入りたかったのか。気がつかなくてすまん。風呂なら家にもあったんだが、疲れている様子だったからすぐにでも寝たいだろうと思ってな……」


 シグの家はそれなりに立派な一軒家なのだ。風呂が有ってもおかしくない。しかし、昨夜のカレンはシグの言う通り疲れきっていて、風呂について考える余裕もなかったことは事実だった。


「それじゃ支度をしよう」


 そう言ってシグは作業机を片付け始める。しかしカレンには厚かましくも、もう一つシグに聞いておきたい事があった。それは男にお願いしても対応出来る可能性は低いことであるのだが……。


 最悪の場合少し怒られるかも知れないと思いつつ、無愛想にも関わらず人の良さが滲み出ている目の前の男にカレンは意を決して聞いてみた。


「あのですね、大変あつかましいとは思うんですケド……女物の下着ってお持ちじゃ……無いですよね?」


 ゴトっと音を立てて、手に持っていた歯車を落とし、明らかに同様している様子のシグ。その様子を見て、カレンは自分の言葉を後悔した。


 さっきのシグの謝罪で妻と言っていたことや、カレンが止まった子供部屋を見るに、シグには妻子がいるはずだ。昨日から一度も見かけないことは何か理由があるのかもしれないが、妻子がいる男に下着をねだるなんてまともじゃないことは誰でも少し考えればわかる。


(逆に独身で持ってた場合も変だよね……)


 なんて馬鹿な質問をしたんだと、カレンの顔はみるみる真っ赤になっていった。


(だがら俺が下着になるっていったのに)


 今のカレンにはセロの横やりにすら怒る余裕はなかった。むしろ、セロの言う通り昨日と同じように下着にも化けて貰えば良かったとすら思っていた。


(あーもう。バカバカバカ! ていうか、恥ずかしすぎて死にたい!!)


 「はぁ……。そんな立派な服を着てるのに下着を持ってないのか? ちょっと待ってろ」


 下を向いてモジモジしているカレンを見かねたシグが、小さなため息を吐いてから二階へと消え、しばらくしてから、小さな紙袋を持って再びカレンのもとにやって来た。


「ほら、これをやる。妻が買っていた新品のものだ」


 シグから受け取った紙袋を開けると、綺麗なラッピングがされた数セットの下着が入っていた。カレンはお礼を言ってから、二階の子供部屋でそれを身に付ける。

 少し胸がきつく感じたが、付け心地はおおむね良好だった。


(チッ)


 頭の中にセロの舌打ちが聞こえて来たが、うるさいエロ猫と言うと、またセロは黙ってしまったのだった。

 下着を手に入れたからには、変な生き物が自分の股に密着しているなんていう、不快な思いをしなくて良い。

 そう思うとカレンは爽快だった。

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