第11話 パンツの真相

「おい! 起きろるんだ! 何時まで寝てるんだい! 」


 せっかくの心地よい眠りから強制的に覚醒させられる不快感を感じながら、カレンは睡眠を妨げる邪魔者への抵抗を試みる。


「うるさいなぁ……。ニートがいつまで寝ても何の問題もないじゃない」


「ニートってなんだよ。もう太陽が登りきってるぞ」


 まどろみの中でカレンは噛み合わない会話に違和感を覚え、昨日の事を思い出してベッドから飛び起きる。


(そうだ、シグさんの家に泊めて貰っていたんだ)


 慌てて昨日セロが化けてくれた服を着ながら、その洋服の胸元に光る宝石に悪態を吐く。


「なんでもっと早く起こしてくれなかったのよ、この役立たず!! 」


「何度も起こしただろ。ていうか、今役立たずって言ったね……。そんな奴にはこうだ!」


 ーーぼーんっ


 その時カレンは服を着終わり、今まさにロングブーツに脚を通そうと片足立ちになったいたのだが、突然気の抜けた爆発音と共に視界を煙が覆い、その驚きにより前のめりに盛大に転げてしまう。


 そしてそのままドアを突き破り、腰を廊下の壁にぶつけて彼女の身体は止まった。


「イタたたた……うぅ。セロのやつ〜……」


 痛みに堪えながら倒れたまま、ゆっくりと目を開いたカレンの視線は、その先の階段から上がって来る人影を捉える。


「騒がしい奴だ」


 そう言いながら、二階の床から顔がでたところでカレンの姿を見たシグは、目を大きく見開きとても驚いた顔で固まってしまう。

 そして部屋の中ではセロが猫の様な姿で、しっぽを振りながらニヤニヤしている。


(あれ? セロがあそこに居るって事は……)


 一抹の不安を感じ、自分の身体を確認するカレン。とても残念なことではあるが、彼女の頭に浮かんだ不安は的中していた事を理解する。


「嘘だ! 嘘! 嘘!なんで裸なのよー!」


 昨日、セロが化けているのではないと言っていた下着すら着けてない状態、完全なすっぽんぽんで床に転がっていたのだ。


 シグは未だに、カレンの間抜けな姿をじっと見て固まっていおり、その顔は少し紅潮している。あの無愛想な印象の男が凝視していることで、カレンの羞恥心は極限に達していた。


「シグさんも何を何時までも見てるんですか、変態っ!! 」


 咄嗟にカレンから吐かれた罵倒にハッと割れに返るシグ。あたふたと何か言おうとしているが、そんなシグを無視してカレンは立ち上がって部屋の中に入り、先程突き破ったドアを乱暴に閉めたのだった。



 カレンはドアにもたれ掛かりながら息を整えようとする。その間もこの騒動の原因であるセロを睨み続けているが、セロら相変わらずしっぽを楽しそうに振りながらニヤニヤしているだけだった。


(そう。そういうことするんだね!!) 


 カレンはセロとは声に出さずとも意志疎通が出来る事を思い出し、頭の中でセロに向かって怒りをぶつける。


 しかし、予想に反してセロからの返事はない。


 不思議に思い更にセロに向かって絶対何か反論しそうな事を頭の中で話し掛けてみるが、それでもセロはニヤニヤしたままだった。


(もしかして、セロと意思疎通できるのは触れてる状態の時だけなのかな?)


 そして確認のため、もう一度頭の中でセロへの暴言を吐く。


(セロのバカ、変態、猫モドキ!)


 それでも無反応なセロを見て、確信するカレン。


 今のセロには、カレンが何をしようと企んでも分からない。それならこれを利用して復讐してやろうと、カレンは思い付いた作戦を行動に移した。


 裸のままその場にしゃがみ込み顔を伏せ、顔面を両手で覆う。


「ぐすん……セロって服になってくれたり、私と一緒に居てくれたりして、とってもいい奴だと思ってたのに。

 冗談で役立たずって言っただけで、こんなに酷い仕打ちをするなんて、もうセロなんて大っ嫌い! シクシク……」


(必殺超絶美少女の涙だ)


 言い終わると少しだけ目線を上げ、垂れた前髪と指の隙間からセロの様子を確認する。


 するとセロは先程のニヤニヤした顔とは違い、口を開けたまま白目を剥いていた。


 想定していたよりもショックを受けている様子のセロを見て、少しやり過ぎたかもしれないと思うカレン。しかし、先ほど自分が受けた辱しめに比べればこれくらい軽いものだと言い聞かせて罪悪感を心の中から消し去った。


 しばらくフリーズしていたが、唐突に我に返るとすがる様に泣きつくセロ。


「わ、悪かったから許して!! もうカレンを悲しませるような事は絶対にしないから……」


 そこまで落ち込まなくても、と思える位に必死で謝って来るセロを見て、そろそろ許して上げようと思ったが、カレンにはもう一つ確認しておきたい事があった。


 なぜ下着はセロではないと嘘を付いたのか、についてだ。


「だって、知ったら嫌がるだろ。でも、カレンに下着無しでいさせる訳にもいかないと思って悩んだ末の行動だったんだよ……」


 セロの申し訳なさそうな釈明を聞き、確かに彼の言う通り下着なしは色々とヤバいな、と納得する。


 盗賊達にノーパンがバレていたら、そういう趣味の人かと思われて余計に彼等の性欲を掻き立てていたかもしれない。


(まぁ……ね)


 怒りも落ち着いたカレンはセロに優しく声を掛ける。


「しかたないなぁ、もういいよ。早く服に戻って。あ、下着は無しでいいからね」


 下着なしというカレンの言葉にセロは不服そうな声を上げたが、カレンが一度きつく睨み付けると、それ以上なにも言わず彼女の服に変身した。


(なあカレン。本当にもう怒ってないかい?)


(もう怒ってないよ。これからもよろしくね)


(よかったぁ……こちらこそ宜しく! )


 頭に響くセロの安堵の声を聞いて、以外と可愛い奴だと思うカレンであった。

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