第33話
理恵と好太郎の両親は、探偵会社の応接室で担当の男と話し合った。
「分かりました。まず現地に調査員を派遣して調べを開始します。
ある程度情況が分かったところでチームを組んで対応させていただきます」
期間はとりあえず二週間を目安にしてもらいたいとのことだった。
理恵のケースでは、犯罪に巻き込まれたケースも考えられるので、その場合は警察に報告をしなければならないという確認もした。
「家族の消息が分かればいいけれど」
父親は探偵事務所を出て駅までの道でぽつりと言った。
理恵は探偵がどれだけの調査能力があるのか分からないけれど、警察がたいして動かないことから稿をも掴む思いだった。
好太郎の事件は、その一週間後正式に病死であることを警察から報告された。
理恵と好太郎の両親は行き場の無い思いだった。
理恵は好太郎の家に呼ばれた。
悲痛な表情の両親とリビングで話し合った。
「仕方ない、我々じゃあどうすることも出来ない」
父親は悔しさのこもった声だった。
「弁護士の方に相談してみたらどうですか」
「知り合いの弁護士に聞いてみたのだが、捜査で結論が出た事案をひっくり返すには、ひっくり返すだけの証拠を見つけ出さなければならない。
それだけの捜査能力のある弁護士事務所は無いということだった」
「諦めないでください。私も調べます」
理恵はパソコンで東京の弁護士事務所を調べ、片端から電話したが、どこも断られた。東京弁護士会に電話をして、一応話しは聞いてもらえるが、そのような事案を受けられる弁護士がいるかどうか分からないという話しだった。
飛び込みで近くの弁護士事務所にも行ってみた。
そこはその界隈では大きな弁護士事務所で、専任の弁護士が5人もいる事務所だった。
所長の大竹という男が応対に出てきた。
「そういうやくざ絡みの殺人に関わる事件で、警察がシロと判断したものを調査するのは極めて難しいですね。立件されて裁判になったものであったらまだ可能性がありますけど、捜査からやり直しというのは弁護士の力では無理です。この件が明らかに殺人であるという確証があれば弁護団を結成して警察や検察に再捜査を嘆願するという形になるのですが」
理路整然と言われては理恵はもう反論出来なかった。
弁護士の話しでは相手がやくざということになれば、相当なリスクもあり、そういう事案を請け負う弁護士はいないだろうということだったので、理恵はもう限界を感じていた。
「すいません、弁護士の線は駄目でした」
理恵は父親に謝罪した。
「いいよ、理恵さんはご家族のことに専念してください。それにもう会社に戻られたらどうですか」
理恵は父親に諭されて、現実に戻らなければならないと思いなおした。
上司に電話をして次の週から出社する旨を伝えた。
月曜日、理恵は出社した。
多くの仕事は理恵の代わりに担当していた社員と引継ぎをして、少しづついつもの仕事の勘が戻ってきた。
まだ何も解決していないが、自分の仕事はしっかりしないといけないという使命感が戻ってきていた。
二週間がすぎたころ、午後8時に自宅にいた理恵に好太郎の父親から電話があった。
#34に続く。
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