第32話

好太郎の通夜と葬儀は自宅近くの葬儀場で行うことになった。

理恵は家族席に両親とともに並んで座り、お悔やみに訪れた人たちに挨拶をした。

好太郎の会社からは社葬にしようという申し出でがあったが、両親は断った。

会社の何らかの事情で死にいたったと両親は考えていたからだった。

会社としては、好太郎の死が事件ではなく、病死になったことで安堵している空気を理恵も感じていた。

会社は部長の死と好太郎の死が事件にならなくて良かったのだろうと感じているようだった。

それが理恵と両親には我慢がならなかった。

会社からのお悔やみも辞退したいくらいに思っていた。


警察は捜査を継続するといっていたが、その後は何の連絡もない。

塩崎という組対部の課長に連絡しても、何ら手ごたえもない返事をされるだけだった。

理恵の家族との連絡も取れないままだった。

もう3週間にもなろうとしていた。

理恵の精神状態は限界だった。

最愛の家族の行方もわからない。

結婚を約束し、式場を決めようとしたときに好太郎がいなくなった。

これ以上の苦痛を味わう人はこの世にいるのだろうかという暗い思いだけが、理恵の細い肩にのしかかっているようで、今にも倒れそうになるのを好太郎の両親のこともあり辛うじて保っているような状態だった。

葬儀が終わり、遺骨をマンションのリビングに置いた瞬間、理恵は崩れるように倒れた。

母親が理恵を抱き起こし、寝室まで連れていって寝かした。

「この子も限界だったんだろう。俺たち以上に気を使っていたから」

「しばらく寝かしておきましょう」

「起きたら病院に連れていこう」

好太郎の両親も倒れて寝込みたかった。

理恵がいてくれたお陰で何とか立っていられるような気がしていた。

理恵は翌日の午後まで寝込んだ。

やっと起き上がり、軽い食事をしてから病院に向かった。

点滴を打ってもらい、大分体は楽になった。

「ご迷惑ばかりかけて申し訳ありません」

「そんなこと言わないでよ。私たちもあなたのお陰で何とかなっているんだから」

母親は心底思っている表情だった。

「ありがとうございます」

「理恵さんの家族のことも心配だろう」

「はい、でも私がひとりでどうにかできるようなことではないので、警察から何かあれば連絡が来るはずですので」

「しかし、好太郎のときもそうだったが、警察は本当に我々のために捜査してくれているのだろうかという不信感がある」

父親は警察に疑問を持っているようだった。

好太郎のことも病死で片付けて、事件化しないのは明らかに変だったからだった。

理恵も本心で警察を頼りにしているわけではなかった。

だが、家族の捜索といっても何も手がかりがない以上女ひとりでどうしようもないことも分かっていた。

それが悔しかった。

「これは私たちからの提案なのだが、理恵さんの家族のこと、探偵に調べてもらったらどうだろう」

父親が意外なことを言い出した。

「探偵に頼むのだったら、好太郎さんの事件について調べて貰ったらどうでしょうか」

「いや、警察と重なるような刑事事件については駄目なようだし、民間の探偵では頼りないし、それならまず理恵さんの家族のことを頼んだらどうかと思ってね。費用のことは心配いらないから」

だが、探偵などといっても、どうやって調査を依頼していいか分からないし、費用もいくらくらいかかるか分からなかった。

「探偵ってどうやって依頼するのか分かりませんが」

「さっきインターネットで調べたのだが、老舗の探偵会社があって、そこなら信用できると思うのだが」

その探偵会社は明治時代に創業し、警察からもOBを採用するなど実績のある会社であることが分かった。

主な業務が身辺調査や行方不明人捜索だったのでそれもちょうどいいと判断した。

次の日、理恵と両親は渋谷区にある老舗の探偵会社のビルの前にいた。




#33に続く。



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