第30話
高速道路で捕まった車には好太郎の姿はなかった。
防犯カメラにも好太郎がその車に乗る場面は無かったので、確定的な証拠がなかったのだが、やくざの関連会社の男らが捕まったのは今後の捜査のポイントにはなると警察は考えていたのだが、理恵たちは肝心の好太郎の行方が分からないので焦燥感は増すばかりであった。
「現場では森内さんのことは知らないと答えていますが、所轄まで引っ張っていって我々が吐かせてみせますから」
刑事は険しい顔をして会議室を出ていった。
理恵と好太郎の両親は会議室で今後の展開を待つようにした。
午後10時を回っていた。
「どうしましょうか。こちらでは泊まれる用意はありませんが」
役員の近江が好太郎の父親にたずねた。
「こんなとき寝てなんていられません」
「そうですか、我々もここで待機します」
近江は川村にコンビニに行って何か食べるものと飲み物を買ってくるように指示をした。
「好太郎さんが乗っていないということはどういうことでしょうか」
椅子を引き寄せ前かがみになりながら理恵は父親に聞いた。
「嘘をついているのか、違う犯人がいるのか」
誰もそれ以上声を出す者はいなかった。
しばらくすると、コンビニから川村が大きな袋を抱えて帰ってきた。
理恵は食欲がなかったので、飲み物だけ受け取ると、部屋の端のほうへ行って、机に突っ伏した。
背後に誰か近づきやさしく肩を抱いてきた。
好太郎の母親だった。
「あなたの家族のことでも大変なときに好太郎まで心配かけて申し訳ないわ」
母親は泣いているようだった。
理恵は顔を上げると、母親の手を握った。
「大丈夫です。お母様こそ今のうちにお休みなさってください」
川村が椅子を並べ、そこに横になるように勧めた。毛布もどこからか持って来ていた。
母親は横になって休むことにした。
午前2時になった。近江の携帯が鳴った。
近江の顔が真っ青になっていた。
電話を終えるとその手からスマホが落ちた。
「森内くんが発見された。多摩川の河川敷だ」
理恵は思わず立ち上がり悲鳴を上げた。好太郎の母親が抱きついてくる。ふたりを覆うように父親が抱きかかえた。
「そんな」
川村は放心状態になった。
「タクシーを呼んでくれ川村君。多摩川署に森内くんがいる」
理恵と好太郎の両親は、社員たちに抱えられながらタクシーに乗った。
深夜なので道路が空いていた。あっという間に世田谷区のはずれにある多摩川署に着いた。案内されたのは地下の霊安室だった。そこには警視庁組対の塩崎がいた。
「とても残念です」と深く頭を下げた。
安置台に乗せられて全身に白い布が覆われていた。
顔の部分を警察官が開けるとそこには間違いなく好太郎の顔であった。
理恵と好太郎の両親は遺体にすがって泣き崩れていた。
#31に続く。
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