第29話
好太郎が出先のビルから消えて5時間が経っていた。
会社の会議室には役員の近江をはじめ管理部の幹部社員と好太郎の父親と母親、それに理恵と刑事がいた。
主任の川村はずっと好太郎の携帯に電話をかけているがまったく通じなかった。
「GPSで追跡をしているんですよね」
近江は刑事に確かめた。
「指示はしていますからそのうち連絡が来るでしょう」
刑事はそう言うと立ち上がった。懐にあるスマホが鳴ったのだ。
しばらく話していたが、スマホをデスクに置いた。
「森内さんの携帯は江東区にあり動かないそうです。機動捜査隊が現着して捜索しています。」
「やくざの会社の人たちはどうなりましたか」
「そっちもやっています」
20分ほどの時間が経過した。
刑事はスマホを取った。
「森内さんのスマホが発見されましたが、ビルの陰に置かれていたそうです。
周辺を捜索しましたが、森内さんはいませんでした。
本庁では都内全管区に緊急配備をして森内さんの発見に全力を挙げています」
「どうしてこうなったんだ」
近江は渋い顔をした。
「ご家族の前でなんですが。やはり草野君は森内君に今回の仕事のとを何かしら関係させていたのではないですか」
課長の志賀が近江に言った。
「森内君が拉致されたということは何らかの関係があったと考えるほうが自然ですな」
「鎌田さんは何か聞いていませんか」
警視庁組織暴力対策部の課長である塩崎が聞いた。
「部長さんが行方不明になったときは、行方不明になる理由がまったく分からないということでした」
「他には何かありませんか」
「仕事のことは詳しく知りません」
「ご家族の方はどうですか」
「私らは仕事のことはほとんど聞かないので」
父親の顔は青ざめていた。
「お父様大丈夫ですよ、好太郎さんはタフですから」
理恵は憔悴しているように見える父親が心配だった。
また1時間くらい経過した。
刑事のスマホが鳴った。
「森内さんの訪ねた会社の前に停まっていた不審な車を追跡すると、首都高速から東名高速のほうに向かったことがNシステムで判明しています。
高速警察隊も加わって現在追跡中です。」
好太郎がその車に乗っているとすればまだ無事なのだと理恵は想像した。
すぐに殺されはしないだろう。そんなことをしても何の利益もない。
殺される理由なんて無いだろう。
そんな考えが頭のなかで交差していた。
会議室にいる人たちはみな刑事の手元にあるスマホを凝視していた。
スマホが鳴り、刑事が出た。
「当該車両を発見し、大井松田付近で緊急停車させたそうですが、そこには追っていたやくざの関連会社のものは乗っていましたが、森内さんの姿は無かったということです」
会議室にいた関係者全員の血が凍りついた。
#30に続く。
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