第28話
理恵の正面に座った刑事は名刺を差し出した。
「警視庁組織暴力対策課第二課課長塩崎孝夫」と書かれてあった。
刑事は理恵からもらった名刺を舐めるように見た。
「スーパーマーケットの会社にお勤めですか」
「はい、現場ではなく管理部門ですけど」
「あなたのご家族も行方不明ということで、栃木県警と話ました」
「そうですか、何か進展があったのでしょうか」
「一生懸命捜査しているということですが、まだ何も手がかりがないということでした」それならわざわざ話すなよと理恵はこの刑事の印象を悪くした。
理恵は好太郎の父親に向き直り「好太郎さんからはまだ連絡がないのですか」と聞いた。刑事が理恵の言葉を遮るように、
「実はうちの課でもマークしているやくざの会社がありまして、こちらの部長さんがその会社と何らかの取引をしていたようなのですが、森内さんは亡くなった部長さんの代わりにしようとしているのではないかと我々の内偵で分かっているのですが、どうも数日前から森内さんと接触があったらしいんです」
「そういうことか分かりませんが」
理恵はこの刑事の物言いに反感を持った。
「すいません、いつも相手にしているのが極道の野郎ばかりで口の利き方を忘れてしまっていまして、不快に感じたらお許しください」
「それはいいんですけど、好太郎さんはその人たちに連れ去られたということですか」
「会社の主要なメンバーがここ数日行動確認が出来ていないんです。どうやらうちが動くのを察知して、一日早く動き出したということらしいんです」
理恵は一気に爆発した。
「そんな言い訳はいいです。早く森内さんを探してください」
「まだ奴等の犯行かどうか分かりませんし、第一、事件かどうかもまだ分かりません」
「ではなぜあなたは私たちに会いに来たのですか」
理恵の勢いに塩崎は思わず苦笑いをした。
「まあまあそう興奮なさらないでくださいよ。一応うちが動いているということを知っておいてもらいたいということでして」
「あなたがたはやくざの専門なのだからしっかり取り締まってくださればいいでしょ。私は森内さんのことが心配なだけです」
そのとき同じ部屋にいた制服を着た50がらみの男が口を挟んだ。
「副署長の神田です。本庁のほうからマル暴の案件なので同席してもらいましたが、我々も会社の方と協力して懸命に捜索しています。ところであなたに最後に連絡が来たのはいつですか」
「一昨日の夜です。お互いに大変だけど頑張ろうというメッセージを交換しました」
「直接お話はしていないということですね」
「話したのは一昨日の昼間です」
会社の話では、新しくした防犯システムの確認を同僚のエンジニアと一緒に行き、そのとき急に部屋を飛び出して、それきり部屋にも、会社にも戻らないということだった。
「何があったのかしら」
「防犯カメラの映像を解析していまして、まもなくその結果が出ると思います」
副署長はそういうと部屋を出ていった。
「やくざの会社の人は把握できているのですか」
好太郎の父親が祖対の刑事に聞いた。
「その会社には5人が常駐し、10人前後が出入りしていますが、常駐のふたりが不明になっているんです」
「もしかしたらその人たちと一緒にいる可能性もあるということでしょうか」
理恵の声は落ち着きを取り戻していた。
「その可能性は高いと思います」
理恵は好太郎の父親と顔を見合わせた。
#29に続く。
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