第27話

理恵は眠れぬ夜を過ごした。

好太郎まで連絡がつかなくなった。朝が来るまで夜明け間近には少しうとうとしたものの、気が付くと午前7時を少し回っていた。

好太郎の実家に電話をした。

「帰ってこなかったわ」

母親も焦燥している声だった。

「理恵さんのところにも連絡は無いですか」

父親が電話を代わった。

「心配で眠れませんでした」

「私たちもだ。8時過ぎになったら会社に電話をしてみるつもりなんだ」

「ではその後連絡していただけますか」

8時30分すぎに父親から電話が来た。

「まだ会社には来ていないということだった。出社したら連絡するように伝えてくれるということだったよ。理恵さんは会社に行ってください」

「わかりました」

理恵は気が重たかったが会社に向かった。

グループリーダーを捕まえて、事情を話した。驚いた顔をされた。

「家族に加えて婚約者まで行方不明とは・・・」

「すごく不安なのですが」

「分かるよ、分かるけどどうするかね。休むかい」

「いえ、大丈夫です。まだ行方不明かどうかは分かりませんし」

「そうだったすまない。とにかく何かあれば遠慮せずに言うんだよ。出来るだけ協力するから」

理恵は心のなかで好太郎は元気でいると確信していた。

自分をひとりにするような人ではないと信じていた。

午後になり、四時くらいのときに理恵のスマホが鳴った。

「会社には来ていない。しかも連絡もない。これから会社に行くところです。詳しいことはまた後で」

父親からだった。

事態は切迫していた。

まさかとは思っていたが、やはり好太郎は自分を置いてどこかに行ってしまったのではないかと想像すると涙がこぼれてきた。

その様子を周辺に気がつかれないように気を使った。

本心ではすぐにでも好太郎の会社に行き、事情を聞きたかった。

だが、不思議に仕事に支障が出るほどの動揺はなかった。

六時になり、退社をした。

好太郎の父親に電話をした。

「今、好太郎の会社の会議室にいる。役員や上司の人とも会った。これから部長さんの事件の担当だった刑事さんがやって来るというのでそれを待っている。良かったら理恵さんもこちらに来てくれないか」


理恵は好太郎の会社に向かった。

理恵が好太郎の会社に着いたのは30分後だった。

社員に案内されて会議室に入ると、そこには数人の社員と父親と母親、それに刑事らしい目つきの厳しい男がふたりいた。

「あなたが鎌田理恵さんですね」

グレーのスーツを着た50歳くらいの男が質問した。

「はいそうです」

理恵は父親のとなりの席についた。





#28に続く。



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