第25話
理恵は弟の同級生の話を宇都宮北署の山崎という刑事に伝えた。
刑事はその同級生と会ってみるということで連絡先を教えた。
次の日6日ぶりに会社に出社した。
デスクに座る前に理恵の上司の岡本が微笑みながら近づいてきた。
「ご家族のほうは進展無しか」
「はい、もう警察にお任せしようと思いまして」
「そうだね、それがいいよ。ともかく無理はしないでな」
上司の言葉に一瞬胸が詰まった。
同僚たちも同じように優しい言葉で理恵を慰めた。
理恵は次第に仕事モードになっていった。
好太郎は、取引先のビルの防災センターにいた。
警備を担当している部屋に最新式の防犯カメラを設置したので、エンジニアとともにその性能を確認するためだった。
モニターには十数か所の場所をモニタリングする画像は分割画面になって出ていたが、液晶画面が高画質化しており、写った人物の顔を鮮明に写し出していた。
「画面が小さくなぅても前よりずっと見やすくなりましたね」
エンジニアは確認を好太郎に求めた。
「そうだね、新しいビルにはすべてこれを導入していきたいな」
そのときだった。ビルの入り口に設置しているカメラの前でカメラを凝視している男が写し出された。
その顔には見覚えがあった。
「あっ」
好太郎は思わず声を上げた。
「何かありましたか」
エンジニアだけではなく、警備会社のガードマンまで好太郎の椅子の後ろに立ち、画面を覗き込んだ。
その男は例のやくざの関連会社の男だった。
昨夜、マンションの近くで声をかけてきた男だった。
「いや、何でもありません」
好太郎は狼狽していた。
まさか、あの男が自分に纏わりついてきている。
狙われていると確信した。
「警察は頼りにならないかも知れない」と近江が言った言葉を思い出した。
好太郎は、エンジニアを調整のために残し、裏口からビルの外に出た。
後ろを振り向かずに地下鉄の駅に向かった。
階段を下りるとき、後ろを振り返った。誰も付けてくるものはいなさそうだった。それでも足早に改札をとおり、すぐに来た電車に乗った。
席に着くとほっとして目を閉じた。
次の駅でとなりの人が立って電車を降りていった。
すぐに他の人が座った。
「森内さん」
好太郎はかすかな声を聞いた。
横を向くと例の男がいた。
「わぁ」
好太郎は心臓が飛び出しそうになった。同じ車両にはほとんど客がいなかった。
「そんなに驚かないでくださいよ」
「何の用事なのですか」
「あんたにしか頼めないことをお願いしようというだけの話や」
「警察を呼びますよ」
「ずいぶんご挨拶やないか。うちらの本当の姿を教えてやろうか」
好太郎は心底震え上がった。
#26に続く。
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