第24話
理恵は後ろ髪を引かれる思いで宇都宮の実家を後にした。
後は警察が捜索してくれるだろうという期待があったが、それも雲をつかむような話で、どこまで期待できるか分からなかった。
理恵が実家にいた5日間、家族の失踪に繋がるような情報は皆無であった。
5日ぶりで帰ったマンションの部屋は、何か空気が変わっていたような気がした。
誰かが入ったような感じがしたのだ。
もしかして、留守のあいだに泥棒でも入ったのかしら。
理恵は室内を見渡したが、出ていったときと何ら変わりが無い。
テーブルのうえには読みかけのファッション雑誌と、結婚式場のパンフレット。それを見て、はっとした。
そうだ、休みの日には式場の見学をしに行く約束を好太郎としたことを急に思い出した。
ごたごたした日ですっかりそのことを忘れていたのだ。
部屋を荒らされた形跡は皆無だった。
部屋に入ると、3畳ほどのキッチンがあり、流しには何も無かった。
出るときに洗って食器棚にしまっていたので、食器類の類は何も置いていなかった。
ベッドがある部屋は6畳ほどで、小さいテーブルに棚、洋服をかけるポール。
何も変わったところがなかった。
現金はけっして部屋には置いていないし、他の金目のものはテレビとノートパソコンだけだったが、どちらもそのままだった。
「でも何か違う」
もしかしたらと理恵はとっさに思った。
「もしかすると家族が来たのかも知れない」
しかし、書置きなどは見当たらない。そんなはずはないとも思った。
私がいないときにこの部屋に入って何をするのだろう。
ありえないと思った。だが、やはり誰か入ったような気がする。
それは、自分の願望なのだと打ち消す思いが交差していた。
理恵のスマホが鳴った。見たことのない番号がディスプレイに写った。
「はい、蒲田ですが」
「私は蒲田君の同級生です。お姉さんですか」
「そうです」
女の子だった。
「ゼミが一緒で、親しくしています」
「弟のことは知っていますか」
「はい、私も連絡が取れないので心配していましたら、大学の掲示板に鎌田君の情報を求むというのがありまして、大学の事務所でお姉さんの携帯の番号を聞いて電話しているのですけど」
「ありがとうございます。もしかして、あなたは健太と交際されているのですか」
「はい、まだ半年くらいですけど」
「そうですか。何かご存知なことはありますか」
「それが、いなくなる前のことですけど少し気になることがあったものですから」
「何ですか」
「誰かに付けられているというんです。そのころはゼミの研究で忙しい時期だったので、疲れが溜まっているんじゃないかと思いましたけれど、今になって思うとそういうことがあったんじゃないかなと思って」
「付けられたというのは気のせいじゃなくてということですか」
「アルバイトの帰りに付けられたというんですけど、一度だけだったということで、家に入って二階から見ると家を見上げたていた男がいたというんですけど」
「どんな男だったか聞いたの」
「帽子をかぶっていたので顔はよく分からなかったということでした」
「ありがとう、よく連絡してくださいました。また近いうちに宇都宮に行くのでそのときお会いしたいです」
「連絡してください」
理恵は有力な情報だと思い、すぐに地元の警察に電話した。
#25に続く。
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