第22話

好太郎の会社では、上司がいない間に死んだ草野部長が商談をしていたというやくざのフロント企業の連中がやってきて、その場を好太郎ひとりが対処したので、好太郎の株が急上昇していた。

管理担当の役員の近江などは、我がことのように喜び好太郎を褒めちぎった。

「よくもあんな怖い連中に堂々と対応したものだ。君にはリーダーになる男気がある」と手放しの誉めようだった。

課長の志賀も、主任の川村も、もし自分があんなやくざと 対応しなければならなくなったらとても平常心ではいられないと好太郎の労をねぎらった。

近江は次の日に警視庁に赴き、捜査三課の課長に相談し、神奈川県警に連絡してもらって、今後二度と好太郎の会社には手を出さないようにと釘を刺した。

「それにしても警察の力というのは大したものだな。鶴の一声だよ」

近江がタバコをふかしながらしみじみと言った。

「やくざはマル暴にとことん弱いっていいますよね 。反対に右翼には弱いんです。右翼はやくざに弱い。つまり三すくみなんですってことを聞きました」

志賀は近江よりやくざに詳しいことを自慢するような表情だった。

「そんなものかね。ともかくやつらはもう来ないよ」

「しかし、草野さんを殺したのが彼らならそんなに簡単には引っ込まないんじゃないでしょうか」

「そうだな、確かにそこが心配の種だな」

「彼らは何が目的なのでしょうか」

「やはり土地の取引だろう。めったに出ない関内の物件らしいから」

「うちで取り扱いたいものですね」

「草野君はどうするつもりだったのだろう」

「裏で取引して手数料を稼ごうとしたのではないですか。ところが売主が買い手がやくざだと知り、草野さんに断りを入れた」

「売主は怒ったんだろう。草野と縁を切ったらしい」

「そらそうですよ。よりによってやくざの関連会社に売ろうとしていたなんて信用できないということになるのが普通です」

「まあ放っておこうじゃないか。触らぬ神に祟りなしだよ」

「そうですね」

好太郎は事務処理を終えて、帰宅の途についた。理恵とは明日会うことにしている。

最寄の駅からマンションまで歩く道で、肩をたたく人がいた。振り向くと、昨日会社に来たやくざのフロント会社の男だった。

好太郎は凍りついた。

「ちょっと話をしようか」

「何ですか、警察を呼びますよ」

「そういきりなさんな。別にあんたに何かしようという話じゃないんだ」

「用事があるなら会社に来てください」

「だからあんた個人に用事があるて言うてんや」

そのとき、道路の向こう側にパトカーが走っているのが見えた。

「お巡りさん!」

好太郎は踵を返してパトカーに向かって駆け出した。

パトカーの警官も好太郎の声に気が付いて、スピードを緩めた。

左右を確認し、パトカーまで駆け寄った。

「やくざに脅かされたんです。助けてください」

警官が降りてきて好太郎から話を聞いた。もう反対側の歩道にはやくざのフロント会社の男はいなかった。

好太郎は警官に付き添ってもらって無事に帰宅出来た。

「どうしたの」

「いや何でもない」

「警察の人が一緒だったじゃない」

母親は心配そうだった。

「とにかく会社に連絡しなくてはいけないんだ」

好太郎は自室に入り、近江の携帯に電話をした。近江はすぐに警視庁の刑事に電話するといって電話を切った。



#23に続く。





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