第20話

好太郎の会社では騒動が持ち上がっていた。

た二人とも地味なグレーのスーツを着ていたが、顔つきがいかにも極道といういかつい感じで、明らかに顔だけで威圧感を与えていた。

「責任者の人と会いたい」

背の高い男がそこにいた社員に命じた。

その様子を見ていた好太郎はすぐに二人のもとに駆けつけた。

主任の川村と課長の志賀は席を外していた。

「どちら様でしょうか」

「お宅の草野氏と商談していたものだ」

「少々お待ちください」

二人を会議室に案内し、女子社員にお茶を出すように指示して、すぐに役員室に電話をして近江に連絡したのだが、あいにく外出していた。

警察に連絡したほうが良いような気がしたが、自分だけでその判断をするには時間が無さすぎた。

「いつまで待たせるんや」

会議室から出てきた男が大きな声を出した。

「申し訳ございません。上司が不在なものですから、ご用件を承りいたします」

好太郎は名刺を出した。

「主任補佐か。一応言っておくが、草野氏との商談は継続中や。その商談の続きをさせてもらおう思うてきたんや」

「どのような商談でしょうか。草野は亡くなりまして、我々は草野部長の個人的な商談なことを承知していないというのが現状です」

「何が個人的や。草野はちゃんとここの名刺を出して仕事をしてたんやで」

「それがうちでは掌握していないことだと申し上げている次第でして」

「承知も何もあるかい。ともかくうちらとこちらの会社との取引や」

「そう言われましても」

二人は名刺を出した。横浜の中区の住所で、名称は「中台商事」と書かれている。ひとりは営業部長、もうひとりは総務部長と書かれていた。

何日か前に近江が言っていたやくざのフロント企業と同じ名前だった。

好太郎はとにかくこの場を切り抜け、彼らが去ったあと、警察に連絡することを思っていた。

「あんたの上司はいつ帰ってくるんや」

「今日は不帰になっておりまして、改めてということになりませんでしょうか」

「まあしょうがないわな。いきなり来たこっちにも問題があるのやから。

ちょっとこちらに来る用事があったから寄ったまでや」

二人は立ち上がり、会議室を出た。

エレベーターまで送り、丁寧に頭を下げた。

「ではよろしくお願いします」

二人からは何の言葉も無かった。

圧倒的な威圧感で二人は去っていった。

好太郎はデスクに戻り、主任の川村の携帯に電話した。

「例のやくざが来ました」

川村は一拍おいた。

「やはり来たか。警察に連絡したか」

「いや、どこに連絡すればいいのか分からなかったので」

「じゃあ俺から近江さんに連絡する。今日は帰らないから、お前ももう帰れ」

好太郎はひとまずほっとした。何とか切り抜けることが出来たと思った。




#21に続く。





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