第19話

理恵は弟の健太がアルバイトをしている宇都宮市内のコンビニエンスストアを訪ねた。

店長は30歳くらいの若い男だった。

「昨日が来る日だったのですが、連絡が取れなくて困っていました」

「今までにもこういうことはあったのですか」

「いえ、まじめな人だったから驚いていますし、何かあったのかなと心配していまして、今日にもご自宅に連絡してみようかなと思っていまっした」

「連絡が取れなくなって3日になるんです」

「どうしたのでしょう」

「何か心当たりはありませんか」

「彼と同じ大学の子も来ていますので、その子に聞けば何か分かるかも知れません」

「その人はいつ来るのですか」

「もうすぐ来ると思います」

理恵は、その男の子が来るのを店の前で待った。

午後四時、その男の子はやって来た。店長が男の子を紹介してくれて、店の奥にある事務所で話をさせてくれた。

「連絡が取れないんだけど、何か心当たりはありませんか」

「学部が違うので詳しいことは分かりません。アルバイト中はあまり口を聞きませんし、でもサークルをやっていることは聞いていました」

「どんなサークルですか」

「遊びのサークルですね。みんなでバーベキューをしたり、野球をしたりするそうです」「大学に聞けば分かるかしら」

「登録されたサークルだから分かると思います」

理恵はその子の言うとおり大学に連絡した。

事情を説明すると大学に来て身分証を見せれば代表者の連絡先を教えるというので大学まで行くことにした。

宇都宮の駅前からバスに乗って20分くらいしたら大学に着いた。

教育学部と工学部のあるキャンパスは国立大学らしい重厚な雰囲気のある大学だった。

守衛の人に聞いて、事務所のある建物のなかに入った。

「そのサークルの部屋はなくて、いつも学食などで集まっているようです。代表者は教育学部の子ですね」

健太は教育学部に所属している。

事務所の人に事情を話すと驚いていたようだった。

理恵は教えられた電話にかけた。

すぐに電話に出たのは教育学部の三年生の中島優貴だった。

「健太君が行方不明なのですか」

「まだ行方不明かどうかは分かりませんけど、連絡が取れないので心配しています」

「彼は副部長のような立場で、仕切ってくれていました。でも、何か悩みがあるとは聞いていませんでした」

「付き合っていた人とか知りませんか」

「特定の人はいたのかなあ。女の子たちとは仲がよかったけど、付き合っているとは聞いたことがないし、私も同じゼミなんですけど、気づかなかったです」

「では何も心当たりは無いですか」

「今はそうですけど、仲間にも聞いていますので、何か分かったら連絡します」

理恵は期待した。

午後6時ころ理恵は自宅に帰った。

今日一日動いてみたが、何も得ることは無かった。

ソファに座ると一気に疲れが押し寄せてきた。

会社に連絡をすると主任が出て、家族の安否が確認されるまで有給を取れと言われた。

忙しい時期に休むことを詫びると主任はかえって「家族の一大事に君はしっかりしなさい」と逆に怒られてしまった。

理恵の目頭から薄い涙が頬に伝わるのを感じた。




#20に続く。




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