第18話
好太郎の会社では、管理部門担当の役員近江が会議室に好太郎や管理職らを集めていた。
「実は死んだ草野君のやっていた業務のなかでの問題が出た」
近江の話によると、草野元部長は、新宿にある空きビルの売買の仲介を請け負っていた。
新宿にある地元の不動産会社が専属仲介をしていた物件だったが、買い手が付かず草野と旧知の間柄であるその不動産会社の社長が草野に買い手を見つけてくれと依頼した。
草野が紹介したのは、横浜にある貸ビルの運営会社だったが、じつはその会社は関西系の暴力団のフロント企業だった。
新宿の不動産会社が調べてその事実が分かったのは、売買契約直前のことだった。結果、取引を中止することになったのだが、横浜の会社と草野との間でトラブルになっていることが警察の捜査で分かったのだった。
「しかしそれは草野部長の個人的な問題だったのでしょ」
「いや、うちの会社として動いていたので、知らなかったではすまない」
「誰もそんなこと知らなかったんですよね」
「私にも報告はなかったし、志賀君も知らなかったんだよな」
近江は志賀に話しを向けた。
「部長は自分ひとりで動いている案件が多いんです。契約がまとまってからの事後報告がよくありました。もちろんその件は何も聞いてはいませんでした」
「その会社から何か言ってくる可能性があるということですか」
「多分言ってくるだろう。だから警察が言うには、警視庁のマル暴(組織犯罪対策課の俗称)に相談したほうが良いということだった」
「警察は部長の事件は事故死で捜査を終えているのでしょ」
「私が聞いたところはそうだが、まだ動いているということじゃないのか」
「そうしたら、事故死以外の事件性があるということですね」
「つまり殺人事件の可能性もあると思っているんじゃないのかな」
「ややこしいことになりましたね」
「事故死で終わってくれればうちへの影響もないのでしょうけれど」
「うちとしては草野君の件はまったく預かり知らないことで通すことが一番の良策だと思うがどうかね」
「横浜の会社が何か言って来たら困りますね」
「警察に相談するしかないだろ」
結局、次の日に近江と志賀で警視庁に行くことになった。
好太郎は、理恵の件がありこれ以上会社で何か問題が起きることが一番困ることだった。
次の週には有給を取って理恵に協力したいと思っていたのだ。
「どうなるんでしょうか」
主任の川村はパソコンに向かいながら好太郎の質問に答えた。
「先が見えないな。君も彼女のことで大変なときになあ」
「出来れば来週にも有給を取りたいと思っていたのですが」
「出来れば取らしてあげたいのだが、まだどうなるか分からないよ。君に休まれると頼りになる奴がいなくなるし。でもどうしてもということなら仕方ないけど」
「もちろん会社を優先しますよ」
「そうしてくれるとありがたい」
好太郎はそうは言ったものの、本心では会社を辞めても、理恵のことを守りたいと思っていた。
#19に続く。
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