第17話
宇都宮の繁華街はJRの駅から歩いてすぐのところにあった。
20年前くらいからどんどん人が少なくなって、廃れる一方なのはどこの地方でも同じ様子なのだが、アーケードのある商店街を抜けて、国道を曲がったところに理恵の父親が勤める商社はあった。
理恵は警察任せには出来ないと思い、自分でも動こうということで、父親の会社に来たのだ。
連絡が取れないことを報告することと、父親の手がかりになるような話を得られればという淡い期待を持っていた。
コンクリート5階建てのビルだが、昭和の初期に建てられたという宇都宮市内でも名物建築とされるほど有名なビルだった。
農耕機械の商社が所有しており、理恵の父親は役員をしていた。
ただ、役員でも何の役職をしているのかは知らなかった。
ビルの階段を上がると受付のドアがあり、中に入るとカウンターがあり、そばにいた社員に声をかけた。
「役員の鎌田の娘なのですが、父のことでお話があるのですが」
40歳くらいの事務服を着た女性社員は「少々お待ちください」と言って窓際にいる課長らしき人のところに行った。
その課長は理恵のことを一瞥するとすぐにやって来た。
「鎌田さんのお嬢さんですか、どうぞこちらへ」
理恵は会議室に案内された。女性社員がお茶を運んできた。しばらくすると二人の男が入って来た。どちらも初めて会う人だ。
「専務をしています岸野と申します」
「総務部長の坂本です」
ふたりは名刺を差し出した。理恵もバックから名刺入れを出してふたりに渡した。
「関東でも大手のスーパーにお勤めですか」
「はい、管理部門を担当しています」
「さすが鎌田さんのお嬢さんですね。優秀ですな」
「そんなことはありません」
「ところで鎌田さんのことでということですが」
「じつは一昨日から連絡が取れないので心配しているのですが」
岸野は少し不審な顔をした。
「どこかご旅行に行かれたのではないですか」
理恵はそれまでに分かったことを話した。
「ご家族が全員ですか、あなたを除いて」
「そうなんです。旅行に行くなら私に何も連絡がないのもおかしいですし」
「困りましたね。うちの会社では経理の監査をしてもらうくらいで実質現場の仕事には関わっておられないのです。長年実績のある方ですので、役員といっても非常勤の監査役のような立場でして、月に一回くらい経理を見てもらっていたくらいですから」
「では最後に父と会ったのはいつでしょうか」
「先月です」
総務課長の坂本が言った。
「何かお心あたりはありませんでしょうか」
「そうですねぇ、うちよりもむしろ新橋の会社のほうが鎌田さんはよく行かれたのではないでしょうか」
「すみません、その会社のことは知らないのですが」
「うちとも取引のある会社で、食品の輸入の会社なのですが」
「その会社では父はどんな仕事をしていたのですか」
「詳しいことは知らないのですが、そこでも役員をしているという話でした。鎌田さんは中国語も出来るので中国との取引を監督していたのだと思いますよ」
「その会社のことを教えていただきますか」
理恵はその会社の住所と連絡先を聞いて、ふたりに礼を言ってその会社を後にした。
次に、弟がアルバイトをしていた商店街にあるコンビニに向かった。
#18に続く。
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