第15話
好太郎は理恵の実家のある宇都宮から新幹線に乗って出社した。
自由席は宇都宮ではもう満員で、けっこう遠距離通勤している人が多いのに驚いたのだった。
午前中はデスクでのルーチンワークをこなし、昼休みになると、部長の失踪事件のときに名刺を渡された警視庁の警備部の課長にアポを取り会いにいった。
昼休みで昼食時なので、大食堂で昼ごはんを食べながらということになった。
ざっと見渡しているだけでも数百人はいるであろう職員食堂は、制服を着た警察官、背広を着た人、作業服の人など様々だったが、警察という堅苦しい雰囲気はさすがに食堂ということもあり、さほど感じなかった。
好太郎は警備課長と同じ定食にして、席に着いた。
「実は婚約者の家族が行方不明になりまして」
「えっ、またですか」
それはそうだろう。
課長が驚くのは無理もない。
好太郎の周辺の人が立て続けに行方不明になったのだ、不審に思わないほうがどうかしている。
「父親と母親、それに弟が一昨日から連絡が取れなくなりまして、実は昨日から私も宇都宮にある彼女の実家に行っているのですが、最初は旅行にでも行っているのではないかと思っていたのですが、家の中の様子が変なのです」
「どう変なのですか」
「家の中は片付いていて、洗濯物なども残っていないし、掃除もしてある。しかし、冷蔵庫のなかを見ると、連絡のつかなくなった日の午前中に買った生ものがそのまま残っていたのです。旅行に午後出かけるとしたら、午前中に生ものなど買い物しますでしょうか」
「昼ごはんにしようと思って忘れたとか」
「母親は非常に几帳面で、彼女に言わせるとそんなずぼらなことをするとは思えないということです」
「確かに、旅行に行こうという直前にわざわざ食料品を買うことはあまり考えられないですね。結局、今までに連絡はないということですね」
「そうなんです。まだ連絡が来たというのは彼女から来ていないですから」
「所轄には連絡しましたか」
「昨日一応地元署に連絡したところ制服のお巡りさんが来てくれたのですが、まだ行方不明とは決められないので数日待ってみたらどうかということでした」
「そうですね、一日くらいではそうなりますね」
「何か痕跡はないかと家のなかを探したのですが何も無くて、夕食を作ろうと冷蔵庫を開けたところ、刺身や生肉が入っていて、ゴミ箱のなかからスーパーのレシートが出てきて、その日の午前中に買ったことが分かって、それで変だなということになったのです」
「分かりました。一応所轄のほうには連絡しておきます。それにしても事件が続きますね」
「やはり事件ですか」
「断言は出来ませんが、怪しいですね。しかし、結局旅行だったとかになれば良いですね」
「そうですね、そう願いたいです」
好太郎は丁重に礼をして会社に戻った。
川村主任に一応報告をしておこうと思った。
二日前から起きたことを詳しく説明すると川村主任は驚いた。
「どうしたというのだろう。部長の失踪といい、君の婚約者の家族までいなくなったというのは不思議な話だ。まさか関係はないのだろうが、君は大変な目に会っているね」
「しばらくは宇都宮からの通勤になると思いますし、出来るだけ業務に支障のないようにしますが、ことの顛末によっては有給休暇をいただくことになるかも知れません」
「分かった、そのときは出来るだけ協力するよ」
「ありがとうございます」
好太郎の脳裏にはひとり実家で待っている理恵のことが浮かんできた。
#16に続く。
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