第14話
理恵は父親の勤務する会社に電話をした。
父親は宇都宮市に本社のある農耕機械の商社の役員をしていたが、他にも顧問などをしている会社もあり、毎日は出社していなかったのを分かっていたので、連絡が取れなくなって24時間過ぎて電話してみたのだ。
電話に出た社員によると、会社に顔を出すのは役員会議があるときだけで、多いときでも月に一、二度くらいだったという。
最近では多分2週間前くらいだったという返事だった。
「お父さんのことはあまり知らないのよ。昔から仕事のことはしゃべらない人だったから」
「お母さんはどう言っていたの」
「今にして考えても、母親と父親の仕事のこととか、会社のことを話した記憶がないわ」
「不思議だな」
好太郎は腑に落ちないといった顔をした。
「そうかなあ、こうちゃんはお父さんの仕事のこと詳しく知っているの」
「詳しくは知らないけど、どんな仕事をしているかぐらいは知っているよ」
「そんなものかなあ」
「そうだよ、家族だろ」
「じゃあ、うちは異常っていうこと」
「異常とは言わないけど、普通じゃないような気がする」
理恵は好太郎に責められているようで不愉快になった。
気持ちがすぐに顔に表れるので、好太郎は察した。
「ごめん、ごめん。そんなこと今はどうでもいいことだった」
理恵は冷蔵庫を開けてなかにあるもので夕食を作ろうとした。
「おかしいな。刺身とか生肉とかが普通に入っている」
好太郎も冷蔵庫のなかを覗き込んだ。
「確かに旅行に行くんだったら生ものは片付けていくよな。ゴミ箱にスーパーの領収書かなにか入っていないかな」
ふたりは居間にあったゴミ箱をひっくり返した。
「あった」
近所にあるスーパーの領収書だった。日付は前日の午前中だ。明細には確かに刺身や生肉の項目もあった。
「やっぱり変だよ。旅行に行く前にスーパーに行って生鮮食料品なんて買わないよ」
「そうよね。旅行じゃないわきっと」
「それなら何でだろ」
理恵の顔から血の気が引いていった。
「誘拐されたんじゃないの」
「弟さんまでか。考えにくいな」
確かにそうだと理恵は思った。誘拐とか拉致とか犯罪に巻き込まれるとしたら、父親ひとりとかだろう。家族全員を誘拐して何をするのだろう。その目的は何なのか。ふたりは顔を見合わせた。
「おかしいことばかりだわ」
「こういうこと相談する人はいないの」
「この前部長の失踪で世話になった刑事さんなら名詞はもらったけど」
「その人に相談したらどうかしら」
「だったら地元の警察の人でいいんじゃないかな」
「だって、この前電話した人も、ここへ来た警察の人も親切そうじゃなかったじゃない」「確かにそうだけど・・・・」
「明日会社に行ったときに会ってみたら」
「そうだね。昼休みにでも会えるようだったら会うよ」
理恵はこんなときに好太郎がいてくれることを本当に感謝していた。
料理を作り、入浴して午後11時にはふたりともベッドに横になっていた。
#15に続く
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