第11話

理恵の家族と連絡が取れなくなって一晩が明けた。

家の据え置き電話、父親と弟の携帯、いずれも繋がらない。

不安と恐怖心でほとんど眠れなかった。

駆けつけてくれた好太郎の腕のなかで少しうとうとしたが、家族の顔がすぐに夢に浮かんできて、あっと思うとすぐに目が覚めた。

時計は午前5時になろうとしていた。

空はうっすらと明けてくるような感じだった。

理恵はスマホを手にとり、グループリーダーの岡本に電話をした。

「おはようございます」

「どうした、こんなに早く」

「じつは実家との連絡が昨日から取れません。留守電やメッセージに伝言を残していますがまったく連絡が来ません。心配なので、今日は休ましてもらいたいのですが」

「いやー、それは。でも、心配だね」

「ご迷惑かけて申し訳ありません。今日の予定では社内作業だけでアポは取っていないので、大丈夫だと思いますが何かあればすぐに連絡してください」

「分かった」

岡本は理恵の突然の電話の内容に朦朧とした頭のなかで整理することができなかったが、とりあえず、部下が何らかのトラブルの渦中になるのではないかということだけはあろうじて理解しようとしていた。

理恵は眠っている好太郎を起こさないように気をつけながら、着替えて外出の準備をした。

「実家に行くのか」

「そう」

「付いていけなくてごめん」

「大丈夫よ。私は心配いらないから。とにかくこまめにラインするから。無理に既読にしなくてもいいからね」


理恵は始発の時間に合わせて家を出た。

町はまだ起きていなかった。空はやや明るくなりかけてい、街灯のきれる路地などはまだ暗く、人影はほとんどない。

高齢者の散歩者が歩いているくらいだった。駅はまだ証明が点いていた。


電車を三回乗り換えて、約2時間かけて実家のある駅に着いた。

そのころには通勤通学のために駅に来る人で、田舎の駅でも多くの人が行きかっていた。

駅前のロータリーを走るような速さで歩き、商店街を抜けると、住宅街になった。

実家の前に着いた。

何の異変も感じられない。

郵便ポストには朝刊が挟まっていた。

それ以外にはない。

鍵を開けてなかに入る。

玄関にはサンダル以外にはなかった。

普段なら父親の革靴や弟のスニーカーが置いてあるのに、そこだけを見ると明らかに外出している様子だった。

「お母さん」

少し大きな声でなかに向かって声を出した。

何も返答はない。

しーんと静まりかえっていた。

スリッパを出し、なかに入る。

居間のドアを開ける。

食事テーブルの上には夕刊が置かれていた。

食器の類はなかった。

テレビの前のソファにも何もない。

きれいに片付いている。

母親は綺麗すきなのでいつものことだが、物が出ていない様子は普通ではないような気がした。

旅行に行くときのような、出しっぱなしなものをとりあえず片付けたような状態に思った。

風呂場、トイレ、和室、二階の弟の部屋、物置になっている元は自分の部屋、家中すべて見たが誰もいなかった。

「どこに行ったのだろう」

家の様子からは旅行に行ったような感じを受けたが、そうなると昨日から連絡が取れないのはどういうことだろうか。

海外に行ったのだろうか。

携帯の電波が届かないところに行ったのだろうか。

しかし、自分に何の連絡も無しに行くことがあるだろうか。

第一、弟はまだ休みではない。

10月だ。

授業が休みだから出かけたこともありうるが、その場合でも自分に連絡がないのはどういうことなのか。

理恵は居間のソファに腰掛けながら、混乱する想像の数々をひとつづつ打ち消すことで必死になっていた。



#12に続く。




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