第10話
理恵が電話をしても、実家の電話も父親と弟の携帯も繋がらなかった。
既に、十時を超えている。三つの電話に何度電話をしただろう。
一向に繋がらない。
どうしようもない不安にかられているとき、好太郎から電話が電話があった。
「家族に連絡がつかないの」
好太郎は声を詰まらせた。
「8時くらいからもう数十回も電話しているのに」
「しかし、家族でどこかに出かけている可能性もあるだろ」
「父親と弟の携帯も全然つながらないのよ」
「しかしまだ二時間くらいじゃあ何とも言えないじゃないんだろうか」
「こんなこと今までなかっったわ」
「メッセージは残したんだろ」
「もちろんよ」
「十二時まで待とうよ。それから考えよう」
「分かった、電話を待ってみる。でもあなたの会社のこともあって不安なの」
「実は今日、警察から電話があって、事故死扱いになった」
「自殺じゃなくて」
「そう、自殺に近い事故死ということだった」
「意味が分からない」
「遺書が無いことと、自殺する動機が見当たらないということだって言うんだけど」
「事件ではないってことなの」
「そうなるね。誰かに死ぬような状況に追い込まれたというか、そういう証拠もなかったということらしいんだよ」
「気味悪いわね」
「俺らとしてはもう忘れて仕事に集中したいんだけど、マスコミが取材をかけてくるかも知れないからね」
「式場の見学は大丈夫なの」
「それは大丈夫だよ。それより君の家族のことが心配になってきた」
「あなたがもう少し待ってみろって言ったんじゃない」
「ごめん。とにかくもう少し待ってみようよ。俺がそっちに行こうか」
「後一時間連絡が来なかったら来てもらいたいわ」
「それじゃあ遅くなるから泊まる用意をしてそっちに向かうよ」
「ありがとう。気をつけて来てね」
好太郎は慌てて明日着るものを用意して、部屋を出た。
好太郎は実家で家族と暮らしている。
城東地区の都営新宿線の駅から歩いて5分のところにある高層マンションである。新宿まで行って、山手線に乗り、高田馬場で乗り換えて数駅で理恵のアパートがある駅に着く。
そこから歩いて数分で着く。
自宅を出てから約40分ほどかかった。
それまでに理恵からはラインが入って来なかったので、まだ家族との連絡は取れていないのだろうということは予想はしたが、理恵が取り乱していないかどうかが心配だった。
部屋のチャイムを鳴らすとすぐに理恵がドアを開けた。
いきなり抱きついてきた理恵の髪を撫でながら強く抱きしめた。
「まだ連絡はないの?」
「そうなの。どうしたらいいのかしら」
「気になるな。いっそのこと向こうまで行きたいところだけど、車が無いから。タクシーで行けばいいんだろうけど、もし何でもなければご両親に悪いしな」
「もし明日まで連絡がなければわたし行ってみる」
「休めるのか」
「そんなこと言ってられないわ。あなたは駄目よ。会社が大変なときに個人的なことで休んでは」
「君ひとりで行かせるのは心配すぎるよ」
「私なら大丈夫。こう見えても逆境には強いから」
「それは知らなかった」
ふたりは明け方までまんじりともしないで理恵の家族からの連絡を待った。
だが、とうとう連絡は来なかったのである。
#11に続く。
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