第8話
好太郎の会社の部長が失踪して2週間経ったとき、突然その件が動き出した。
管理部門担当の役員の近江が青い顔をして管理部の部屋に入ってきたのは、昼休みが終わって皆が仕事モードに突入しはじめた直後だった。
「志賀君と川村君ちょっと」
近江はふたりを立たせて窓際に来させ耳打ちをした。
「えぇー」
課長の志賀が思わず声を上げた。
その声を聞いた管理部の社員たちは3人に目を向けた。
好太郎は立ち上がって近づいた。
近江は好太郎を制するような手振りをして、管理部の社員たちのほうへ体を向けて、
「草野部長が亡くなった」
社員たちはお互いに顔を見合わせ、うそっという顔をして見詰め合ったりしていた。女性社員のなかには顔を手で覆って泣いている者もいた。
「警察から連絡があり、東京の西のほうで発見されたようだ。まだ詳しいことは分かっていないが、草野君の家族もう遺体がある病院に向かっているそうだ」
近江は振り絞るような声だった。
「志賀君と森内君は私と一緒に病院に行ってくれ」
そういうと志賀と好太郎を促して管理部の部屋を後にした。
「社長のハイヤーを使ってもよいということだから」
社長のハイヤーを使えというのは、それくらい緊急事態だということになると好太郎は思った。
草野の遺体が置かれているのは、八王子の大学病院だった。
そこに向かう途中で警察から得た情報を近江は語った。
「草野君が見つかったのは、奥多摩の山中だった。ハイキングに来た人が岩陰に人が倒れているのを発見し、警察に通報をしたんだ。病院に運ばれたが、すでに死亡しており、死後10日以上は経っているということだった」
「やはり自殺ですか」
「自殺他殺事故死のいずれも可能性があるので、大学病院で司法解剖するそうだ」
「まさか他殺じゃないでしょうね」
「どちらにしても今夜のニュースにはなる。しばらく騒がしいことになりそうだ」
「そうですね」
八王子にある大学病院に着くとすでに数人の新聞記者が待ち構えてきた。
「失踪されていた部長だそうですが、間違いありませんか」
めがねをかけた30歳くらいの記者がまず近江に声をかけてきた。
「すいません、まだ分かりませんので」
好太郎は機転をきかせて近江と記者の間に割って入り、遮るようにした。
三人は病院に入ると受付にいた警察官に聞いて、草野の遺体のある場所を聞いてそこに向かった。
部屋の前には草野の家族が一塊になってうずくまっていた。
好太郎たちは立ち尽くした。
「このたびはご愁傷さまです。管理部の近江です」
近江は草野の奥さんらしき人に声をかけた。
奥さんは泣きはらした顔を上げて近江を見上げた。
「会社で何かあったのですか」
「我々の調査ではまだ何も見つからないのです」
奥さんのほかには、女子大生くらいの年齢の女性と、高校生くらいの男の子がいた。
三人は立ち上がり、好太郎たちを見た。全員がどうしたのだという顔をしている。
部屋のドアが開き、中から刑事らしき人物が出てきた。
「八王子中央署の山崎と申します。こちらの事件を担当しますのでよろしくお願いします」
「やはり事件なのでしょうか」
「まだ事件か事故なのか調査中です。結論が出るまでは我々捜査一課が担当します。マスコミへの対応もこちらで行いますが、とりあえずご遺体を確認願います」
三人は部屋に入った。
ベッドに寝かされた遺体は白いシーツをかけられていた。
顔の部分の白いガーゼ状の布を上げると、そこにはまさしく草野部長の顔があった。
黒く変色して分かりづらくはなっていたが、まさに草野部長そのものだと三人は確認した。
「これから司法解剖されますので」
刑事の山崎はそういうと白い布を草野の顔にかけた。
#9に続く。
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