第2話

森内好太郎の会社の管理部部長が姿を消した。

何の連絡も無しに会社に来ないことを不審に思った部下が、管理部長の家に連絡をすると、その日はいつも通りの時間に家を出ていたことが判明した。

管理部長は、香坂というもともとは大手不動産会社に在籍うぃていたのだが、ヘッドハンティングで、2年前に好太郎の会社に移って来たという経歴の持ち主だったが、さすが大手不動産会社に勤めていたこともあって、各方面に顔がきいて、その意味ではプロパー採用の課長や主任にはないスキルを持っていたので、好太郎も香坂を範とすることが多い人物であった。

その部長が失踪したのか分からないが、まったく連絡が取れない情況が一日続いていることは異常事態であることは確かだった。

夜の8時過ぎになっていた。

社長や役員までまで管理部に降りてきてビルのワンフロアーを占める管理部には人のどよめきが渦巻いていた。

そんななかでも、管理部門では通常の業務も行われていたので、たんたんと業務をこなす人と、立ってざわざわしている人がいて、まさにカオスのような状態になっていた。


好太郎は、理恵との待ち合わせ時間を過ぎていることにすっかり忘れていた。

やっと思い出したのは、スマホが鳴って、理恵からのラインを見てからだった。

「ごめん、会社でちょっと事件が起きてしまって、まだ帰れないんだ」

「それは仕方ないけど、大丈夫なの」

「俺がどうのこうのということではないんだけど、とにかく今は詳しいことを話せないから、また電話するね」

「じゃあね、頑張ってね」

電話が終わって好太郎は後悔をした。

いくら異常事態とはいえ、理恵との約束を完全に忘れてしまったのは、あまりにもまずいのではないか。

自分が何か大きなミスでもしてどうにもならないような状態になつているのなら仕方ないかも知れないが、部長が失踪しているのではないかというまだ不確定な情況でもあるし、好太郎がどうにかできるような情況でもないのに、理恵のことをすっかり失念していたということはどういうことかと自分に呆れていたのである。

それくらいの愛情しかないのかと理恵に突っ込まれても返す言葉がないなという感じでもあった。

そんな思いを吹き消すかのように管理部門担当の役員から声がかけられた。

「管理部門で役職のあるものは全員残れ。部長の手がかりが見つけられるまで帰れないと思え」

いったいどういうことなのかと好太郎は思った。

部長が行方不明なのは重大な事態であるが、それと自分たちはどういう関係があるというのだろう。

それとも、管理部門にいるものすべてが部長の失踪に何らかの関わりがあるとでも言うのだろうか。

どうしようもない憤りを覚えていた。

課長の草野が反応した。

「とりあえず警察に連絡したほうが良いのではありませんか」

「それは分かっている。だが、そうなるとマスコミにこのことが知れ渡ることになるかも知れない。出来るだけ、内々に済ませれるものならそうしたいと思うのが会社の人間じゃないのか」

「分かりますが、もしこれが犯罪に関係するようなことであれば出来るだけ早く警察に事情を説明しないとかえって傷口が大きくなる可能性が高くなると思いますし、まず部長のご家族と相談してみたらどうでしょう」

しばらく無言だった役員は、家族と話しをして、まず家族から捜索願という形で警察に報告してもらい、同時に社内でも調査をして、部長の失踪が自発的なものかどうかということを検証してみようということになった。



#3に続く。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る