六通目 孤独感

 河野君


 熱海での観光、すごく楽しんでいるかい。申し訳ないね、急に君の誘いを断ってしまって。みんなにも、よろしく伝えておいてくれ。

 どうでもいい話なんだが、ついさっきまで、僕はすごく悩んでいたんだ。いや、悩むと言っても、何があったわけでも何を思い詰めてるわけでもないんだが、どうも、僕の人間性の深い部分に触れるような考えが浮かんできて、それでしばらく考えていたんだ。

 先ほど、一人で夜道を歩いていると、近所の家の前に子供が十人ばかり集まっていたんだ。浴衣やら飴やらを持っていたから、すぐに、夏祭りのようなものをやっているんだと気づいたよ。でもどうやらそれは、いわゆるホームパーティのようなものらしい。

 そうして、僕はそれを眺めているとふと、「僕はなぜ一人なんだ」、「僕は一人でいるべき人間なんじゃないか」と思えてきたんだ。

 君と僕は、週二回ほど顔を会わせるだろう。でも、それは仕事をするに必要だから会っているというわけだ。僕たち、一度もプライベートで会ったことはないじゃないか。今回の旅行も、まあたまたまとはいえ、僕は参加しないことにになってしまった。それで、僕は普段は何か理由がない限りは一人でいるわけだ。特別誰と仲がいいわけでもないし、僕の方から誰かを飲みにでも誘うことは珍しい。向こうの方からあえて僕のことを誘うのは、それこそ理由がないとありえない。もっというと、僕はもう幾年も誰かと付き合うということもしていない。誰かと、いくつかの小さな恋沙汰のようなものはあったにしても、本気の恋というものはしていない。

 かといってもだ、特別寂しいとか、誰かに会いたいという欲はあまり浮かばないんだ。誰かと一緒にいたい、とあまり感じないんだ。むしろ、僕なんかが誰かといるべきじゃない。向こうに気を使わせるだけだとすら思ってしまう。

 それでも、同時に、別に僕は誰かといるのが苦痛なわけじゃないんだ。君に一度、昔に付き合っていた子の話をしたことがあるだろう?その子といた時は、僕は本当に幸せだったんだ。だから、僕に、誰かと一緒にいて幸せと感じる機能は備わってはいたらしい。

 とはいえ、その子と別れたあと、同じような恋を探そうとはしないんだ。もちろん、可愛らしいと思う女の子もいた。いい子だと思う子もいれば、僕を好いてくれるような子もいた。しかし、その子たちと、一緒にいたいと感じないんだ。

 そう考えると、僕のその機能はもう、壊れてしまったのかもしれない。僕には、家々の光が、すごく遠い、ファンタジーのように感じたよ。

 こんな、なんだか根暗な話をして悪いね。ただ、なんとなく聞いてほしかっただけだ。唯一の友人とも言える君にしか、伝えられる人がいなかったんだ。別に、思い詰めてるわけではないから、気にはしないでくれ。こっちに帰ってきた時に土産話を聞かせてくれ。ではまた。


 中野


追伸  絵葉書、届いたよ。緑が綺麗だな。できれば、また何枚か何枚か送ってくれ。楽しみにしている。

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