五通目 連絡の圧力

 大門君


 先日の特集の件は大変お世話になった。ああいう形で私を取り上げてくれる雑誌はそう多くないから、大変にありがたいと思っている。感謝している。今後も、君の『文公誌』で私の小説を連載できること、楽しみにしている。

 そこで、一つお願いがある。あくまでお願いだ、間違っても苦情なんかじゃないというのはわかって欲しい。その上で、聞いてほしい。

 家には君から届いた、締め切りの催促の手紙がもう五十を超えた。通算ではない、今月の分でだ。君が寄越しているのだから、わかってはいると思うのだが、毎朝、毎夕、多い時には日に何通も君からの手紙が届く。その中身は、これまた君が書いているのだからあえて言う必要はないと思うが、私の連載に関して、ここはこうすべきだとか、ここはどう考えているのだとか、どこまで書けているのか、いつまでに仕上げるのか、と言う内容がほとんどだ。

 私は、週二回も、君と面と向かって話しているじゃないか。何を、そんなに躍起になって私に手紙を送る必要があるんだ。

 正直、だんだんと、郵便の兄ちゃんがポストを開ける音が怖くなってきた。がちゃん、がちゃんと音がするたび、あぁまた大門君から手紙が来た、あぁ、と憂鬱になるんだ。そうして、二日ばか僕がそれを開けないと、溢れんばかりに手紙が積もっている。こう言っては悪いが、私は大門君のところだけで書き物をしているわけじゃないんだ。その上、私の暇の全てを君との手紙に使う気はないんだ。

 頼むから、本当に必要な時だけにしてくれないか。

 また、私が返事を寄越さないからって、あえて私のところに訪ねてくるのは止してくれないか。確かに、君は君の仕事をしているだけかもしれない。実際、締め切りを守らない作家は多いだろう。君の苦労もわかる。でもね、私は、それでも締め切りは守る方だと思うんだ。内容だって、そう失望させたことはないと思うんだ。

 むしろ、君の手紙のせいで、だんだんと書き物をするのが嫌になってきた。もう、読むのすら怖いくらいだ。怖いといえば、配達の時間以外でも、ポストを開けるような音がすると、不快に気分が沈むようになってきた。

 私は一度、このポストの音が不快なんじゃないか。私はこの音にやられているんじゃないかとも思った。そうして、私はその口をガムテープで塞いだことがある。しかしどうだ、あの兄ちゃんときたら、ポストの下に手紙を置き、この上にそこらのしれっと石を乗せて行くんだ。まぁ、これに関しては君に言ったって仕方のないんだが、つまりはだ、私の不快の原因は決してその音じゃなかったんだ。やっぱり、音はしなくても手紙は溜まる。それが不快なんだ。

 君は、一日に数通くらいいいじゃないかと思うかもしれない。でも、いつ届くかわからない僕からしてみれば、その不快な時間と言うのは四六時中なわけだ。

 これはそうだな、君に常につけまわされているような気分になるんだ。そして、私も常に机に向かってるわけじゃない。君も、そこまでは求めていないだろう?なのに、私の気持ちからすれば、仕事をしていないと、君はどこかで見ていて、また、あの忌まわしいとも言える不満のような手紙が届くんじゃないかと安らかではいられないんだ。君の、一日数回の手紙は、私にとっては毎日を揺るがす悩みの種なんだ。

 どうか、どうか頼むからもうこれ以上、手紙を寄越すのはやめてくれ。仕方のないときはいいから。どうか、君の時間軸に僕を当てはめないでくれ。僕には僕のペースと言うものがあるんだ。仕事はきちっとするから、どうかわかってくれ。頼む。


木田勘三郎 

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