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初めてのことだった。あんなにも、私をじっと見つめてくる女性。
道端で、たまにちらちらとみている人は何人かいた。でも、あんなにも私を一点で見上げる人は初めてだ。立ち止まって、私を見ている。
気づいたら、私は階段を降りてその道に立った。
女性はやはり、私を見ている。同じ道に立った私を見ている。
私より年配のような女性。長い髪で、白いワンピースを着た女性。
その雰囲気は異様だった。こちらを見つめながら、口元が何かを口ずさんでいる。
普通の人なら、その光景に鳥肌が立つだろう。だけど。
「幸子さん?」
どんな風貌でも、かつて追いかけていた、後悔の念を抱き続けていた人をわからないはずがなかった。
あの時の謝罪と、あの時の想いを。
今、伝えたい。
「幸子さん!」
走り幸子さんのもとにすぐに駆け寄りたい。急ぎ階段を降り、私を見つめていた女性、幸子さんに抱きついた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・」
自分が知らずとも、顔に涙がこぼれた。ふいに出た謝罪の言葉は、幸子さんに向けた謝罪だった。自分が何を下かなんて、自分でもはっきりわかっていたから。
でも、涙がとまらない。この謝罪は、幸子さんだけの謝罪ではないのかもしれない。
父、母、加奈子ちゃん、小林さん、聡さん・・・。
それから。
「いいのよ」
幸子さんが返事をした。抱きついた腕を緩まして幸子さんの表情を見ると、痩せこけてもわかるぐらいの、あの時私が惹かれていた幸子さんの素敵な笑顔だった。
でも、腹部が重く感じた。
「あなたが、私と死んでくれれば」
幸子さんの笑顔が、美しかった。
安堵した瞬間に、重い激痛が腹部に走る。視線をずらすと、腹部に棒のようなものが刺さっていた。
見る見るうちに、足元の雪が赤くなる。刺さっている棒に手をもっていくと、手も赤く染まり始める。
幸子さんは笑っていた。それはもう楽しそうに。
その笑顔が、素敵だった。
膝に力が入らない。赤く染まった雪に膝を降ろした。
茫然とする中、唯一見えたのは、さっきまで持っていたエンゼルクリームが幸子さんの足に踏みつけられていたという光景。中身のクリームが雪の上に飛び出ている。もう、ドーナツという原型もない。
それが、幸子さんの私への思いですか。
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