九、シンパシーと願い

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正月は実家で過ごした。実家では弟夫婦と甥姪たちと楽しく正月を終えた。父と母とも他愛のない話をする。三十代前半までは「良いご縁はないの?」と、母が心配してくれていた。だが三十代後半になって、婚期をいじる親族は甥のみとなった。

 

それも娘として少し寂しいと感じながらも、自分が恋愛すらしないことに両親は理解を示してくれていた。

 

何年も経ち、父と母とはだんだん良い関係を築いているような気がする。自分が今まで受け入れないと決めた人との関係修復を意識しながら接することになれなかったが、父と母は心境の変化に気づいてくれたのか、前以上に話しかけてくれるようになった。

 

特に母には感謝している。一人暮らしで慣れないからと週一で食材や生活用品を送ってくれる。時々電話をしてくれて、「良い大人なんだから心配しないで」と言っても「だめよ!奈子ちゃんはずっと私の娘なんだから!」と言うことを聞いてくれなくなった。

 

今は昔と違って他人行儀な行為はなくなり、母も私のプライベートに入り込んでくる。休みの日は暇だと連絡があり、たまに食事を楽しんだり映画に行くような関係になった。父は母から外出したという話を聞くたびうらやましそうにしているのだという。

 

そんな母とは正反対で、前の母・・・もう一人の母とは連絡を取っていない。消息もわかっていないと祖父母とおじさんは言っていた。時々会いに行ってはお茶をして、仕事の話とか普段の話をする。祖父母も結婚のことを心配してくるのだが、家にいるおじさんが結婚していないこともあってかあまり強くは言わない。おじさんも相変らず土いじりをしている。「花が俺の奥さんみたいなもん。ほら、たくさんいるだろ?」と誇らしげに話す。そんなおじさんは昔と何も変わっていない。

 

おじさんから少し話を聞いたが、どうやら実家近くの周辺で母らしき人物をちらちらと見ているとのこと。相変らず身なりはきちんとしていないらしいが、まあ、生きていればそれでいいとも思っている。

 

少しだけ、前の母を受け入れているような気がする。受け入れるというよりも、前よりは少し興味を持てるようになったということ。

 




自分の成長として、ゆっくりと受け入れるように。自分に無理をしてはいけないが、自分の過ちをゆっくりでも取り戻せるように。大人になってから年齢を重ねるスピードは速い。だけど、そのスピードに抗ってでも、ゆっくりと自分の犯した事項を少しでも調整していきたい。

 

そう、願いながら毎日を生きていきたい。

 

今までの過ちを捨てることなく、自分の中で悔やみながら少しずつ変化に対応できる自己概念を持つことができてきた。

 

さらに、自分を労わる想いも持つことができるほどに精神的に成長しているとも思っている。それが私の願いでもあって、懺悔でもあっ。この年齢になると、その感情が一つだということにとらわれずに生きているような気がする。

 

だから昔みたいに葛藤することもなくなって、昔よりは少し楽に生きているような気がしている。

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