八、自己からの決断と再構成

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自分が「嘘」を嫌いなのはよく知っている話。

 

なぜ固執しているか、そこには、昔の自分の思い出が関わっているのもわかる。

 

だが、いつからだろう。自分が人を選ぶようになったのは。








 

ドーナツのワンセットを注文する。コーヒーのお供にはオールドファッション。あの時の幸子さんと同じドーナツを食べるのだ。

 

あの時と同じ、シンプルなドーナツ。このドーナツはドーナツの味をそのまま出している。

 

そう、あの時に気づけばよかったんだ。幸子さんの部屋に初めて入ったときのこと。部屋の景色を見たり部屋を眺めていたときに、台所にあったドーナツの違和感。

 

ドーナツが一列に入るような大きな紙箱。そこから幸子さんはドーナツを出すとき、オールドファッションではなく「別の何か」を出したんだ。

 

大人になって、陳列されているドーナツを購入する財力があるからこそ、本来の種類というものはインプットされるもの。

 

あれは、エンゼルクリームだった。

 

取り出したのはエンゼルクリームだった。それは見間違えることはない。粉糖が乗ったエンゼルクリーム。

 

あの時、私は幸子さんの想いをもっと知ってから行動するべきだったのだ。

 

あの帰路での習慣も、幸子さんを知るためだった。それがドーナツを食べているというポイントを、幸子さんを知るための方法として捉えなかったことに人生の後悔をしている。

 

幸子さんは、本当の恋に気づいてほしかったんだ。

 

それが普遍的じゃない愛だったとしても、貫くために。小さな形で一般社会にあらがっていたんだ。

 

一般的概念に、小さく抗っていたんだ。

 

だから、クリームの詰まったエンゼルクリームだったんだ。

 

ドーナツには、メッセージを込める力がある。あるいは、ドーナツ自身に意味がある。

 

自分がドーナツなら、何になるだろう。

 

そう思う日々が、私をドーナツの店に向かわせ、イートインスペースに入る習慣を作ったのだ。一人でただ考え、食べ、飲み、また食べて飲む。そんな日々をずっと考え続けて今に至るのだ。









 

あのアパートの前に着いた。社会人になって、このアパートに来たのは初めてのことだ。というか大学卒業以来だから、十数年ほどたっている。

 

幸子さんの部屋には、他の住人の人が住んでいるようだ。高校の頃はこのアパートもそこまで古ぼけて見えなかったのだが、十年ちょっと経つと、塗装部分が剥げている

 

懐かしい階段を上ってみる。あの踊り場までゆっくりと階段を踏みしめる。段を一つずつ丁寧に上り、踊り場まで出た。

 

そこには、目の前に中学校が広がってるだけの、昔と全く同じ景色だった。

 

ここから、幸子さんはメッセージを送り続けていたんですね。

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