五、親友
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大学生になり二年が経つ。私は希望通り付属の大学に進学した。成績も問題ないと学校内推薦をもらい、早々と進学を決めたので受験勉強をしたという思い出がない。
加奈子ちゃんは、専門学校の進学を決めた。専門学校は大学と違って忙しいようで、なかなか連絡が取れずの状態だった。
正直、距離を置けてよかったと思う自分がいた。
加奈子ちゃんのように、キラキラと輝く友人と一緒にいると、自分が生きていることさえ惨めに感じてしまうことがあったから。
つまらない講義を聞いて、テストのためにメモを取る。興味が全くない講義を受けているのだが、卒業のための単位稼ぎとして受けなければならない苦痛。
正直、私は何のために大学進学を決めたのかわからなかった。
高校を卒業して働いても良かった。何かやりたいことを探して専門学校に行ってもよかった。
でも、私には夢がない。夢が持てない人間だ。そう完結することは私の中でもどかしい気持ちになるのだが、それほどに、自分に夢を持つことの対価が存在しないとまで思えてしまう。
自分が描く夢を、自分という人間が背負うまで、自分が全く成長していないと思ったから。
言い換えるなら、自分という人間が夢に釣り合うような人間ではないと思っているから。
夢を持つことが、私には許されるべき行為なのか。
そう、思ってしまう。
だからこうして大学でも友達という友達ができず、一人で講義を受けている。気づいたら二年。意外と月日が経つのは早い。
系列の大学ということもあり、同じ高校出身の人が多い。だが特別仲が良いわけでもないし、知り合い未満の人もいる。他人と仲良くしたいとも思えない。そんな願望もない。
だから、いつの間にか一人でいることが多くなった。
でも、それが苦痛に思えない。大学という環境が自由という環境そのものでもあるから、一人でいることが周りには不思議に思われないのだ。
環境に溶け込んで生活をすることができる。高校の時より、人の目を気にしなくて清々する。一人でも穏やかに、気兼ねなく生活ができる。
一人でいることが、これほどまでに落ち着くとは思わなかった。
腕時計を見る。もうすぐ講義が終わる。
講義を終えて、教諭がその場を去る。生徒たちも席を立ち、ゆっくりと移動していく。私も席を立った。
立った視線の先に、前の席に座っている女性に何かを投げている男女のグループがいた。
一見仲良く戯れているグループの一角かと思ったら、よくよく見てみるとそのグループにいる男性が先ほどの講義で使った資料の紙を丸めて前の席に座っている女性に投げつけた。
周りの取り巻きは、その光景を見て笑い転げる。
正直、何が楽しいのかわからない。その光景を不思議に思ったり怪訝そうな顔をしている人たちもいた。
でも、見るだけで誰もその人を助けようとしなかった。
それは「弱肉強食」の世界だ。あの人が投げられていれば、私はいじめられることはないし、巻き込まれたくないし。
そんなことを目で語る人がたくさんいた。
その集団に私は近づいていった。
男性が投げようとした紙を持つ手を掴んだ。
「何すんだよ?!」
「あんたら、こんなことして楽しいの?」
ぐうの言葉も出ない男性。
「大人げない。」
一言告げると、男女のグループは舌打ちをしてその場を去った。
「あの・・・ありがとうございます。」
おとなしそうな女性は、その場で感謝の言葉を添えてきた。
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