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マンションから見たあの光景。小学校からの幼馴染と彼氏が歩いている光景。
嫉妬は、私の感情になかった。
幸子さんは、あれからも度々私の様子を気にかけてくれた。
「意外とケロッとしてるね」
マンションの踊り場から降りてきてくれる。
「意外と大丈夫なんです」
この言葉が素の言葉なのだ。でも、幸子さんはそれからも私のことを気にかけてくれた。
あの時、私は友人と彼に真意を問いたいと思っていた。単なる事実確認。それ以外の感情は全くない。
だけど、言い出せなかった。
なぜだろう。
単純に言い出すタイミングを失ったともいえるけど、どちらかというと勇気が持てなかった。
親友を問い詰めることになるかもしれない。彼氏を責め立てる結果になるかもしれない。
それが一切の感情を持たずとも、淡々と事実確認をしたいがために言葉で攻める結果になってしまうのではないか。
二人が嘘か。私が気づいていない偽の嘘か。
その真意を知りたかった。
事実が見たままなのか、それとも、裏のある事実なのか。
その真意を知りたかった。
でも、私の中で勇気がわかなかった。
無感情なのに。無表情なのに。
こんな時だけ。私は自分のこだわりを言い訳にしている。
「奈子ちゃん?」
ここ最近、気を緩めると過去がフラッシュバックするようになった。日を重ねるごとに思い出す時間が長くなる。
「あ、梅酒飲みすぎた」
「あー・・・。水飲みな水」
水を渡してくれる。その水を一口飲み、酔いを整えた。
「さ、今日は帰りますか」
「うん」
そのまま店を後にした。勢いで二軒目まで来たものの、飲みすぎて時間を忘れ、気づけば終電を逃してしまっていた。なのでタクシーで帰宅する。ちょうど加奈子ちゃんと住んでいる地域が一緒なので、タクシーの運賃を奮発しての帰宅となった。
呼んでいたタクシーが到着し、早々に乗り込む。お酒に汚染された身体に力が入らず、乗り込んだ後に体の重圧が自然と加奈子ちゃんにゆだねられてしまう。
「奈子ちゃん」
「・・・何?」
頭の中がぐるぐると回旋している。今日は飲みすぎたと反省しながら、タクシーの揺れに集中しているときだった。
「あたしのこと、どう思ってた?」
その言葉の意味は何なのか。その時は言葉をかけてもらうだけで私自身がその意味を理解できる状態ではなかった。
後に、過去の柵の回答が紐解かれていく。それが自分自身を理解するための材料となることは、この時吐きそうになっていた私には到底想像できないことだった。
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