4

 

 ある日の朝、いつものように改札を出て通学をしていた。

 

 「ちょっと待って!」

 

 背後から声がした。朝から大きな声がするな。そう思いながら足を止めることもなく、いつものように歩く。

 

 「ちょっと待って!待ってください!」

 

 声が近づく。ふと、左腕をつかまれた感覚。背後に視線を向けると、そこには息を切らした若い男性が立っていた。

 

 「あの、すみません・・・。」

 

 どうやら私が呼ばれていたようだ。突然のことで私も驚き、足を止めた。男性はホームから追いかけてきたようで。息を必死に整えようと手を口に押えている。

 

 「はい」

 「あの・・・あの・・・」

 

 その時、私はその若い男性を不審な人物としか思えなかった。新手の勧誘か?それとも別の理由で呼び止めたのか?いずれにせよ、このまま立ち止まっていると遅刻する。

 

 「あの、遅刻しちゃうんで」 

 「あ!すみません!あの、実はあなたに言いたいことがあって」

 

 息が整ったようで、そこから大きく息を吸った。

 

 「あの、駅でずっと見てました!好きです!」

 

 突然の告白だった。

 

 私は瞬時に、それが告白だとわかったのだが、何せ今日初めてあった人。好き嫌いという感情以前に、「初めまして」。そんなことを言われても、こちらも何を言っていいのか。

 

 「・・・」

 

 言葉が出てこない。

 

 「あ!決して不審者ではありません!ストーカーとか、そういう類のものではありません!何度か駅でお見掛けして、段々と好きになっていったというか・・・すみません」

 

 男性が汗をにじませて、顔を赤くして言った。

 

 なぜか、私はその男性の姿に、初めて会ったのに魅力的だと思えてしまった。

 

 「できれば、お友達からお付き合いしてもらえませんか」

 「はい」

 「・・・えっ?!」

 

 ふいに「はい」と言ってしまった自分がいた。

 

 「私でよければ・・・」

 「え?!あ!ありがとうございます!すみません」

 

 この人は何回謝るんだろう。

 

 「あの、南条大付属に通っていますよね。俺、その付属の大学に通ってるんです。だから、学校でもよく見てて、俺、高校も付属出身で今年から一年生になったんです。そんな年離れてないです!」

 

 必死に説明する男性がなんだか可愛く見えてしまった。

 

 「なら、メールアドレス交換しますか?」

 「え?!あ!はい!よろしくお願いします。」

 

 鞄から携帯を取り出し、交換した。

 

 「それでは。また」

 「はい!ありがとうございました!」

 

 目を輝かせながら、男性は私に手を振った。私は頭を軽く下げて、そのまま学校へ。

 

 幸い、遅刻にはならなかった。

 

 先生が朝の連絡事項を読み上げているときに、鞄から携帯のバイブ音が鳴った。こっそりと取り出し、携帯を開くと先ほどの男性からメールが届いていた。

 

 「今日は突然すみませんでした。聡って言います。これからもよろしくおねがいします。」

 

 だからなんで謝るの。笑いが込み上げた。

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