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 家の鍵を取り出して、家に帰った。玄関を開けると、リビングで父と家政婦さんの声が聞こえた。時刻は十八時、そこまで遅くはない。だが、行き先を伝えずに外出したので心配しているかな。もしかしたら祖父母が今日のことを伝えたかもしれない。

 

 恐る恐るリビングの扉を開けようとした。

 

 「まだ、奈子は帰ってこないな」

 「大丈夫ですよ。忠司さんが送ってくださるって言ってたんですから」

 「そうだな」

 

 今日の事はやっぱりばれていた。心配をかけてしまったことに罪悪感を抱いた。

 

 「・・・やはり、私ではだめなのでしょうか」

 「・・・そんなことはない。私は君を愛している。それに奈子は前のことがあったからそっけない態度をとっているだけで、義則はだんだんとなついているだろう」

 「でも・・・」

 「自信を持ちなさい。私から二人には言っておくから」

 「義正さん・・・」

 

 扉の前で、ただ私は立っていた。扉を開けられない。初めて聞くことだった。

 

 いつもの私なら、父の新たな門出に喜ぶだろう。家政婦さんだって、優しいし頼りがいがある。いつも感謝をしている。

 

 でも

 

 そのやり取りが、今の私には良い風には聞こえない。

 

 それが、家族を構成しようとしていた父の嘘。家政婦という職業を偽っていた家政婦の嘘。

 

 そういう風にしか、聞こえなかった。

 

 離婚もしていないんでしょ。何が新しいお母さんだ。何が堅実なお父さんだ。



 

 何が家族だ。



 

 扉を開けた。

 

 「ただいま戻りました」

 「・・・お帰り。奈子。心配していたんだ」

 「・・・母は、他の男と一緒にいましたよ。いいんじゃないんでしょうか。家政婦さんと一緒になっても」

 「奈子、お前・・・」

 

 扉を閉めた。

 

 ただただ、思ったことを口にした。

 

 自分が、惨めに思えてきた。

 

 私の嘘で家族を壊し、人の嘘で絶望する。

 

 因果応報だ。

 

 自分を責めた。こうなったのも





 全部、私のせいだ。





 嘘をつく大人に絶望を抱いても、

 

 それは全部私のせいだ。

 

 階段を上がった。上がった先に、弟が立っていた。

 

 「お帰り」

 

 さっきまでの話を聞いていたのだろう。

 

 「・・・義則が話したかったことってこのこと?」

 「うん」

 

 弟の悲しい顔。罪悪感しかない。

 

 「ごめんね」

 

 弟は、一粒の涙を流した。

 

 嘘をつく人に、魅力は微塵も感じない。

 

 ただ、血のつながった兄弟は、どんなことがあったとしても愛しい。

 

 弟を守る。私にはそれしかない。

 

 それが、嘘の懺悔。私の贖罪だ。


 たった一人の家族、大切にしたい。

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