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 土曜日。今日母に会いに行こうと決めていた。

 

 「姉貴?入るよ」

 

 弟が部屋に入室してきた。私の外出用の恰好に視線を向けた。

 

 「出かけるの?」

 「うん」

 「そうか、姉貴が暇なら勉強教えてもらおうと思ってたんだけど。また今度お願いするわ」

 

 そういうと弟は退室した。

 

 休日はほとんど外出することがない。外出しても、図書館や参考書を買いに本屋に行くぐらいで、特に友人と遊ぶ予定もあまり取り付けない。

 

 自分の時間を、自分で有意義に使うことが、私のプライベートの使い方でもあった。

 

 「今日は母に会いに行くの」そう伝えることもままならない。家族に伝えたら、止められそうな感じがしたから。

 

 支度をして、部屋を出る。

 

 「お嬢様、お出かけになるのですか?」

 

 家政婦さんが声をかけてきた。

 

 「はい、遅くならないように気を付けます」

 「そうですか。気を付けていってらっしゃいませ」

 

 笑顔で送り出してくれた。

 



 そのまま駅まで歩き、電車に乗った。実際に電車に乗るのは何度もあるので手慣れたものだが、新幹線に乗るのは初めてだった。本当に切符を買えるのか、不安がよぎった。

 

 都市部の駅に着き、新幹線の購入するためのカウンターに行く。

 

 「すみません、名古屋まで」

 

 受付の人は、私をじっと見た。

 

 「学生証はありますか?」

 

 提示すると、切符を購入できる算段をしてくれた。

 

 「お一人で?」

 「はい。祖父母に会いに行くんです」

 「そうですか。気を付けてくださいね」

 

 そういって切符をもらう。学割というのが効くのを初めて知った。

 

 そのまま慣れない足取りで、改札を出てホームにたどり着いた。

 

 このホームには新幹線が止まる。ここで飛び降り自殺をする人もあとを絶たない。そんなニュースを見て心を痛める人もいたり、新幹線という何百キロの速度で走るものに突っ込むということを嫌悪する人もいる。

 

 実際に、今ホームに立ってみて、飛び込む人の気持ちを想像しても、「本当に死にたい」と思わなければ、よくわからないのだろう。

 

 その人は、このホームに立って、何を思っているのか。

 

 どんな景色が広がっているのか。

 

 知りたい。

 

 気づいたら、乗る新幹線がホームに来た。

 

 私は好奇心を抑え、新幹線に乗り込んだ。

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