二、特効薬
1
小学校を卒業し、地元の中学校に入学した。
中学校では、部活動に慢心し、学業もおろそかにせずどの生徒にも頼られるような優等生を演じた。
小学生の時と違うのは、その立ち位置を得た自分を受け入れることができなかったこと。
まだ足りない。まだ必要とされていない。
自分の思考回路は、常に悲観的に物事をたとえ続けていた。
「奈子ちゃん」
加奈子ちゃんは別のクラスになったが、今でも仲良くしてくれる幼馴染だ。
「何?」
「ごめん、教科書忘れちゃって。国語の教科書って持ってない?」
加奈子ちゃんはよく忘れ物をする。私は机の中から教科書を出した。
「はい。今日使わないからいつでもいいよ」
「ありがとう!ほんと助かった!」
笑顔で感謝を伝えられた。どの生徒にも頼られるよう、常に全教科の教科書は机の中にしまってある。自分のロッカーにも教科書を備品してあり、いつでも頼られるような生徒であることに準備を怠らなかった。
中学一年生。常にテストは満点。教師からも「生徒の鏡」ともいわれた。順風満帆な生活を送っている。そう思う人が多いだろう。
だけど、何か物足りない。
この衝動が私を悩ませている。
「榊さんって、本当に何でもできてすごいね」
前の席に座っている小林さんが、声をかけてきた。
「そんなことないよ」
「でも、いつも納得していないような顔をしてる」
小林さんが、私の顔を見て言う。じっと見つめてきて、私の顔の表情を詮索しようとしているように見える。
「そう?」
わざとらしく見えても、首をかしげてとぼけて見せた。小林さんはこちらに笑顔を向けた。
「大丈夫。口は堅いから」
そういうと、何か私から情報を得たようで、前を向いて座りなおした。同じクラスメイトの小林さんは、みんなから「不思議ちゃん」と呼ばれている。群れることを嫌い、常に一人で行動している。普段から他人に興味がないような素振りを見せていたので、話しかけられ笑顔を見せられた時は正直驚いた。
一瞬、「納得していない」という小林さんの言葉にドキッとした。まさか小林さんに不意を突かれたような気にさせられるとは心外だったが、私のことを理解してくれる一人なのかもしれない。
しかし、私は常に感情を表情に出さないように努力をしているつもりだったが、どういう経緯で私が満たされていないことを察知したのだろうか。もしかしたら、無自覚に表情に出ているのかもしれない。
背筋が凍る。ここで今まで築きあげてきたものを壊すわけには行けない。
身を引き締める。
小林さんには特に気をつけなけば。
授業を終え、そのまま部活動に参加して学校を終えた。
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