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 「今日は将来の夢を書いてもらいます。」

 

 担任の先生がプリントを配っていった。小さな用紙に「将来の夢は?」と書かれた質問事項の空欄に、迷いなく夢を描いた。

 

 「奈子ちゃんもう書いたの?」

 

 隣の加奈子ちゃんが声をかけてきた。隣同士で名前も似ていたことから、仲良くなった友達だ。

 

 「うん、すぐにかけたよ。」

 「みせてー!」

 「うん!」

 

 そういって加奈子ちゃんに私の用紙を見せた。

 

 「わあ、さすが奈子ちゃん。難しい漢字書いてる!」

 「うん、調べて練習したの。将来の夢というか、もう私決まってるからね。」

 「そうなんだ!すごいね!」

 「どれどれ、奈子は何を書いたんだ?」

 

 担任の先生が駆け寄ってきて用紙を見た。先生の表情は曇っていた。

 

 「奈子・・・お前本当にこれが夢なのか?」

 「はい!お母さんになれって言われているので!」

 

 嘘に罪悪感はない。もちろん、両親の言うことは絶対だ。将来の夢で「詐欺師」と書くことに、私は何のためらいもなかった。

 

 「・・・そうか。」

 

 そういうと私の机に髪を置いた。「ありがと」そうつぶやいて担任の先生は神妙な顔つきで教壇に戻っていった。

 

 私は、担任先生がそんな顔になるとは思っていなかった。両親のように、もっと笑ってくれるのかと期待していたが、一度も笑ってくれなかった。

 

 授業が終わって休憩時間に弟が取り巻きを連れて私のクラスにやってきた。

 

 「おい、定規。」

 

 私の席の横に立って、私を手で押しのけて机の中をあさりだす。

 

 「いいかげんにしなよ。見ててうざい。」

 

 加奈子ちゃんが弟に注意をした。すると弟は加奈子ちゃをにらみつける。

 

 「うるせーよババア。詐欺師のツレも詐欺師だな。」

 

 そういうと弟の取り巻きも大笑いをしていた。

 

 「いくら弟でも、態度ってものがあるでしょ。もう小学生なんだから、いい加減わかったら?」

 

 その言葉に、弟はカッと表情を変え、加奈子ちゃんを張り倒した。加奈子ちゃんは床に倒れこんだ。同じクラスの子たちが駆け寄り、「なにやってんだ!」と叫ぶ子や「大丈夫?」と駆け寄る子もいた。

 

 「義則やめて!定規あげるから!」

 

 鞄から定規を取り出し渡そうとした。弟の取り巻きがそれを手から奪い去り、ニヤッと笑う。

 

 「早く出せばいいんだよ詐欺師」

 

 弟は大笑いして教室から出て行った。


 私はすぐに加奈子ちゃんに駆け寄った。

 

 「加奈子ちゃんごめん・・・」

 「いいのよ、あと少しで私も殴りそうだった。止めてくれてありがとう」

 

 そういうとほかのクラスメイトも心配な様子を見せ、「大丈夫か?」「お前の弟頭おかしいんじゃない?」と、加奈子ちゃんと私の心配をしてくれた。

 

 「だけど、弟は本当はいい子なの。迷惑ばかりかけてごめんなさい」

 

 クラスでも、私のことを心配してくれる心優しい友達ばかりだ。でも、私は良い姉だから、弟を悪く言うことはできない。

 

 加奈子ちゃんも、クラスのみんなも、私の言葉を聞いていつもの表情を見せる。優等生で、誰にでも優しい。そんな生徒を演じなければ私の立場はない。

 

 「でも、何かあったら言ってね。私、すぐにかけつけるから」

 

 加奈子ちゃんがニコッと笑顔を見せてくれた。一文字だけ違う名前の加奈子ちゃん。どうしてこんなやさしくて、素直で。

 




 私と全く違うんだろう。

 

 ズキッと、胸に何か刺さったような痛みが走った。

 

 「本当にありがとう」



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