第62話 フランクの訪問

 いつものように、ミーアとリルと一緒に帰宅すると、家の前にフランクが立っていた。

 ミーアは呆れ顔をし、リルは嬉しそうに彼に微笑んだ。


「フランク!」

「あ、えっと……久しぶり、クレオパスさん」


 普通に声をかけたのに、フランクは何だか気まずそうにしている。


「クレオパスさん、……もう大丈夫?」


 いきなり不思議な質問をされて面食らったが、すぐに、彼に会うのはエルピダに会って以来だという事を思い出した。きっと、かなり心配をかけてしまったのだろう。本当に悪い事をした。


「おれはもう大丈夫だよ」


 とりあえずそう言ってフォローしておく。フランクがほっとした表情を浮かべたので安心してくれたのだろう。とりあえずは良かった。


 フランクによると、あの時のクレオパスは死人のようなうつろな目をしていたらしい。それでミーアが怒っていた理由も、リルに『生きてる?』と確認された理由も分かってしまった。


 みんなには本当に迷惑をかけた。改めて三人に謝罪をする。元気になってよかったと心から言ってくれるのが嬉しい。


「フランクくん、家に入れば? 立ち話するのもあれでしょ」


 ミーアが『仕方ないなあ』という表情をしてそんなことを言っている。


「いいの。お邪魔して」

「何を今更。家の前まで来といて。ね、リル」

「そうだよ。約束のジャーキー食べてってよ。リルが用意するから! クレオパスさんも手伝って」

「はい?」

「ニャ!?」


 リルがおやつの用意をするなんて珍しい事もあるものだ。おかげでミーアと一緒に驚きの声を出す羽目になってしまった。


「リル、おやつの用意くらいあたしがやるわよ」

「いいのリルがやる! お姉ちゃんはおもてなしお願いね!」


 そう言うがはやいかさっさとクレオパスの手を握る。そうして唖然としているミーアとフランクを置いて家の中に入っていった。


 後ろから『何でそうなるの!?』というミーアの不満そうな声が聞こえてきた。


***


「リルさんがおやつの用意するなんて珍しいな」


 棚の上からジャーキーの入っている入れ物を下ろしながら少しだけからかった。


「えー? いつも通りでしょー?」

「どこがだよ!」


 人数分のミルクをグラスに注ぎながら平然とうそぶくリルに思わず突っ込んでしまう。


「クレオパスさんにはいつも通りに見えないの?」

「全然見えないね」


 そうっと手を伸ばしてクレオパスがお皿に盛ったジャーキーを少しだけつまみ食いしようとするリルを止めながらきっぱりと言う。


 こういう所は確かにいつも通りだ。


 でもジャーキーをつまみ食いしたかったからというのがおやつの用意をしたがった理由ではないだろう。そうなら誰もいないときにこっそり食べればいいのだ。ただ、そんな事をしたらミメットに烈火のごとく怒られてしまうだろうが。


「でも、なんでおれまで?」


 いつもならミーアが一緒に用意をするはずだ。なのに、リルはクレオパスを選んだ。一体どういう風の吹き回しだろう。


「ああ、クレオパスさんとちょっとお話したいなって思って」

「話?」


 一体何の話なのだろう。もし、その話が相談だったりしたら、アドバイス出来るか分からない。きっと親であるカーロとミメットが適任だ。


 魔術関係ならクレオパスが適任だが、一体何だろう。


 とにかく聞いてみないとどうしようもない。だから『何の話?』と優しい口調で尋ねる。少し年長者ぶっていると思わなくもないが、実際に年長者なのだからいいだろう。


「クレオパスさんってさ、クレオパスさんのパパが迎えに来たら『みゅこす』? に帰るんだよね?」

「うん」


 それは決定事項だ。父には会いたい。また父と暮らしたい。


 それに、クレオパスはまだ魔術修行を終えていない。やはり改めてしっかりと学んでおきたいのだ。この土地で、クレオパスは何度も実力不足を実感した。


 でも、何でリルがそれを聞くのかが分からない。もしかして不安になったミーアに聞いて欲しいと頼まれたのだろうか。


 そう思って尋ねてみたが、返ってきた返事は『何でお姉ちゃん?』だった。どうやら違うようだ。


 ますますリルの質問の意図が分からない。なのでもう一度『どうしたの?』と聞く。


「リルもそこ行ってみたいなって思って」


 その言葉は好奇心旺盛なリルらしい。きっとクレオパスと接することで知らない土地を旅してみたくなったのだろう。

 それなら何の問題もない。


「いいよ。いろんな問題が落ち着いたら招待してあげるよ。是非みんなで遊びに来て! 名所をいろいろ案内してあげるよ。美味しい名物料理もいっぱいあるよ。楽しみにしてて」


 にこやかな笑顔を見せる。だが、返って来たリルの表情はあまり晴れやかなものではなかった。それどころか、どこか戸惑っているように見える。


「えっと、あの……そうじゃなくて、クレオパスさんが帰るときにリルも一緒に着いていけないかなって」

「は?」


 思ってもみなかった発言にクレオパスはつい固まってしまったのだった。

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