第22話 真相

 クリスマスイブの十九時。住宅街の中にある小さな公園には、私以外に人の姿はなかった。


 気温は一桁の前半だろうか。ジッとベンチに座っていると寒さが身に染みてくる。コートのポケットに忍ばせている使い捨てカイロを握り締めて寒さをしのいだ。


 待ち合わせの時間を過ぎてもその人は現れなかった。


 今日の昼前に話がしたいと電話をかけた時、その人はしばらく黙った……。そして『いいですよ』と落ち着いた声で承諾しょうだくしてくれた。この公園を待ち合わせ場所に指定したのはその人だった。


 十分過ぎた。約束を取り付けた時から、もしかしたらすっぽかされるかもしれないとは覚悟していた。


 一時間は待とう。それでも現れない時は……。


 どうするかを考えていると、タクシーが公園の入り口の前の道路に止まるのが見えた。そのタクシーから人が一人降りて来て、こちらに向かって歩いて来た。


 待ち合わせをしていた人だった。


 その人はピンクのキャリーバッグとヴィトンのバッグを持っていた。ヴィトンのバッグは、ブランド品にうとい私でも知っている、白皮に原色のブランドロゴが散りばめられている少し前に流行はやったバッグだ。キャリーバッグの方は夢の国のキャラクターがプリントされていた。


 どちらのバッグもこの人には似合わないと思った。


「ごめんなさい、少し遅れちゃいましたね。イブだからか、空車のタクシーがなかなか見つからなかったの」


 普段着のこの人を見るのは初めてだったが、黒のカシミアコートに黒から白へのグラデーションカラーのマフラーを巻き、黒のパンツに白のローヒールを履くこのファッションこそがこの人には似合うと思った。


「いえ」


 私はベンチから立ち上がった。目の前の人は立ち上がった私より背が高く、顔を見ようとするとアゴが上がってしまう。


「ありがとうございます」来てくれたお礼を言った。

「あら、何、私あなたにお礼を言われるような事何もしていないけど」

「いえ、それは、来て頂けたから、それで」

「もしかして来ないと思っていた?」

「はい。いえ……、ああ……、来て頂けると信じていました」


 私、何かおかしい……。シドロモドロになってしまった。


 そんな私の様子を見て、この人は小さく声を出して笑って微笑んだ。


 キレイ……。


 笑うとその魅力は倍増した。そしてその瞳に見つめられると、いつもの自分でいられなくなりそうで調子が狂ってしまいそうだ。


「真希先生、いえ権藤先生」


 目の前にいたのは、権藤亜希の双子の姉の権藤真希だった。真希は現在、金沢が入院している病院で麻酔科医をしているのだ。


 甲府で亜希と真希の同級生に高校時代の二人が並んで写っている写真見せて貰ったが、一卵性の双子だけあって瓜二つだった。


「先生は止めて、あなたは私の患者さんじゃないんだから」

「では、権藤さん」

「はい」


 このモデルのような容姿ようしの女性には、権藤というゴツイ名前は似合わない。だから病院の看護師たちも権藤先生とは呼ばないで、真希先生と呼んでいたのではないだろうか。


「やっぱり真希さんと呼ばさせて下さい」

「いいわよ。フフ、あなたもうちの看護師たちと同じ?」

「えっ」

「権藤って名前が私に似合わないって」


 当たった。


「ああ、はい……。いえ、すみません」

「いいのよ、れているから。私は生れてからずっとこの名前だから全然違和感はないんだけどね。座りましょうか」


 真希はキャリーバッグをベンチの横に立て、その上にヴィトンのバッグを乗せて、ベンチに腰を下ろした。


 私は真希に自分のひざを向けても触れない程度に距離をおいて、隣に座った。


「それ、アフリカに持って行く為のバッグですか?」


 真希は今年いっぱいで病院を辞めて、アフリカで医師として働くという事を、昨日金沢の様子を見に行った時に知ったのだ。だから今まで躊躇ためらっていた真希への接触を決断したのだった。


「ううん、これは違うの。このバッグは私のバッグじゃないのよ」


 どうりで似合わない筈だ。ん? という事は誰のバッグなの? どうしてここへ持って来たの?


「これについては後で話すわ」


 気になる。しかし今は別の話だ。


「用件を先に済ませてしまいましょう。えーと、何を知りたいのかしら?」


 いきなり来たか。


「もう分かっているのでしょう」


 どう切り出そうか……。


「甲府で東京の女の刑事が、私と妹の事を聞き回っているって友達から連絡があったわ。あなたの事でしょう?」

「はい」


 そこまで知られているのなら気が楽だ。


「で、どこまで分かっているのかしら?」


 私にしか出来ないやり方でやろう。


ずは私の話を聞いて下さい。そうしないとフェアじゃありませんから」

「フェア? 何か話が見えないけど」

「聞いて貰えれば分かって貰えると思います。お願いします」

「……いいわ、聞かせて頂戴」


 真希は何かを感じ取ってくれたのか、小さく微笑んで私の目を見つめた。


 私はお母さんが高校三年の冬に遭遇した悲劇から話して聞かせた。真希は驚きの顔を浮かべたが、途中で口を挟んでくるような事はせず、黙って私の話を聞き続けてくれた。


 お母さんが私を妊娠して一人で産み育てた事。お母さんの不慮ふりょの死。遺言テープ。私が警察官になった理由。犯人四人のうちの二人が死亡している事。春山を発見した経緯。そして私が春山にした事。全てを話し終えると真希が口を開いた。


「一つ質問?」

「はい」

「その春山って男は空港の税関で捕まったの?」

「捕まりました。ただし成田ではなくフィリピンのセブ島の空港でですけど」

「やだ、成田の税関を通過しちゃったの」真希は嬉しい話を聞いた時のようなハシャギ声を上げた。

「みたいです」

「ウワッ」真希は口を両手で押さえて興奮をおさえた。


 私が期待したより、成田空港の税関職員と麻薬探知犬は優秀ではなかったみたいだ。


 春山は悪運が強いのか運が悪いのかは分からないが、成田空港の税関をすり抜けてセブ島の税関で覚醒剤が発見されたのだった。


 私がその事実を知ったのは、春山が旅に出てから一週間後の事だった。春山の旅立ちの日から新聞やテレビのニュースを注視していたのだが、春山が逮捕されたというニュースは伝えられる事はなかったのだ。


 そこで私はもしやと思い、ネットでフィリピン国内のニュースを検索した。するとそこに、日本人の春山という男が覚醒剤所持の容疑で逮捕されていたという小さな記事を見つけたのだ。


「それじゃ、今そいつは?」

「フィリピンの警察に捕まっています。でも情報が少ないのでどこの警察にいてどんな状態でいるのか、起訴はされたのかなどは不明なんです」

「大使館に問い合わせれば分かるんじゃないかしら」

「ええ、私もそう思って問い合わせてみました。でも逮捕された事実しか教えて貰えませんでした」

「そうなんだ……。あれっ、フィリピンでの覚醒剤所持の罪ってどれくらいなのかしら? あの辺りの国って日本よりきびしいんじゃなかったかしら?」


 私もそれは気になって調べてみていた。


「大統領が変わって厳しくなって死刑になる人もいるみたいですけど、三十グラムの所持ですから最悪で無期懲役になる可能性はあるみたいです」

「無期か……。良かったじゃない」

「そうでしょうか」

「何、もしかして後悔しているの?」

「やった事は後悔していませんけど、自分が思っている以上の結果になって正直戸惑っています」

「気持ちは分からなくはないけど、気にする事はないと思うわ。あなたの話を聞く限り、そいつは相当のクズじゃない。刑務所に入っていた期間も罪の割に短いじゃない。それも全ての罪で罰せられたわけじゃない。事件になったのはほんの一部だったんでしょう?」

「はい」


 お母さんと同じような被害に遭った女性は他にもたくさんいたらしいが、そのほとんどの女性は告発を見送っていた。お母さんもそのうちの一人だ。


「だったらフィリピンで科せられる刑罰は、告発出来なかった女性たちの分だと思えばいいのよ。たとえそれが無期や終身刑になったとしても、それは決して重い罰ではないわ」


 真希の言葉は私に対するなぐさめというよりは、真希自身が心からそう思っているように聞こえた。


「ただし、あなたにはまだやらなければならない事があると思うの」

「何でしょう」


 私には真希が何を言おうとしているのか見当もつかなった。


「今のままではそいつ……、名前何だったかしら?」

「春山です」

「そうだった。その春山は今のままではどこの誰かも分からない人にハメられて、異国の刑務所で暮らしていくだけじゃない。それだけではあなたが望んでいる罪の償いにはならないんじゃないかしら」


 確かに真希の言う通りだ。ハメた人間が誰かとかは考えるかもしれないが、過去に犯した罪と向き合う事はないだろう。


 だったら、どうすれないい?


「手紙を書くのよ。裁判が結審して刑務所に収容されてからでいいから。別にあなたの素性すじょうを明かさなくてもいいのよ。春山だけに分かる言葉で教えてあげればいいのよ。たとえば……」


 真希は夜空に浮かぶ半月を見上げて考え始めた。


「こんなのはどうかしら【一生をかけてはずかしめを受けた女性たちの苦しみを胸に懺悔ざんげの日々を過ごして生きろ】とか」


 なるほど。その手紙を春山が受け取れば、なぜハメられて、異国の刑務所で残りの人生を過ごさなければならなくなったかを理解して、自分の人生を後悔するかもしれない。


「書きます、絶対に」

「文章は考え直した方がいいかもね」真希は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。

「考えます。一番効果的な文章を」私は真希に微笑み返した。


 この時、私には二人の気持ちが通じ合えたように思えた。


「さあ、今度は私の番ね」


 真希は改まって姿勢を正した。


「あなたはどこまで知っているのかしら?」


 そう聞かれると言葉に詰まってしまう。確実に分かっている事は、高岡にオートバイ事故を負わせて大怪我をさせた際に亜希が亡くなってしまった事だ。高校生の亜希が高岡たちに拉致されて暴行された事も堂本の証言でハッキリした。後は状況証拠とも言えない私の仮説の積み重ねだけだった。その事を正直に真希に話した。


あきれた。そんなんじゃ私を逮捕出来ないじゃない」

「はい」

「私はあなたから電話を貰った時覚悟したのよ。やはり完全犯罪は失敗だったかって」


 それって自白?


「認めるんですか、金沢にした事を?」

「んーん、どうしようかな……。認めたらアフリカへ行けなくなってしまうのよね」


 真希は困り顔を見せた。その顔はこんな状況でもとても美しかった。


「いえ、その心配はありません。たとえ真希さんが罪を認めても、私は真希さんを逮捕しません」


 美しい顔にやられて言ったわけではない。


「本気? あなた刑事でしょ」

「刑事の前に性犯罪被害者の娘です。真希さんの気持ちは誰よりも分かるつもりです。だから私は真希さんを逮捕しません。それを証明する為に、私は真希さんに私の秘密を話したのです」

「そうか、そうだよね。だったらあなたは何がしたいの?」

「逮捕はしませんけど、刑事として何があったのか真実が知りたいんです。生意気なようですけど、刑事の性分です。ですから、何があったのかを教えて下さい」頭を下げた。

「頭を上げて、教えてあげるから。さて……、どこから話そうかしら……。そうね、まずはこれを読んで貰った方がいいわね」


 真希はそう言うと、コートの内ポケットから水色の封筒を取り出して、それを私に差し出した。


 私はその封筒を黙って受け取った。封筒の表面や裏面には宛名あてなや差出人の名前はおろか文字一つ書かれていなかった。


「亜希が書いたものよ」真希が悲し気な声で教えてくれた。


 封筒の右端に切り込みがあったので、そこから中身を取り出した。中からは薄ピンクの花の縁取りがしてある可愛らしい便箋びんせんが三枚出てきた。四つ折りになっていた便箋を開くと、キレイでしっかりした文字が書かれていた。亜希の人柄の一端が見て取れた気がした。


 私は深呼吸を一つして気持ちを整え、手紙を読み始めた。


 これは誰にも言えない私だけの秘密です。

 でも、私の中だけでとどめて置く事があまりにも苦しいので、

 ここに記します。

 あの日。

 真希は数学の補修を受けていて、

 先に帰っていてと言う真希の言葉に私はしたがって一人で帰る事になりました。

 竹内果樹園の間の道はいつも通い慣れている道なので、

 何の警戒もしていませんでした。

 でも、あの日はいつもの道ではありませんでした。

 道を進んで行くと、

 出口をふさぐように一台のキャンピングカーが止まっていました。

 私がそのキャンピングカーの横をすり抜けようとした時、

 突然ドアが開いて私はキャンピングカーの中へと引きずり込まれました。

 抵抗したけれど無駄でした。

 お腹を殴られました。

 口に布を詰め込まれました。

 ガムテープで口を塞がれました。

 頭から袋をかぶせられました。

 何分か走ってキャンピングカーが止まりました。

 男たちのヒソヒソ声が聞こえて、袋を取られました。

 男が四人いました。

 一人は子供で、他の三人は私と同じ年頃の男の子でした。

 どの男の子も見覚えはありませんでした。

 男の一人が私に向かって言いました。

 『この間はよくも生意気な口をきいてくれたな。

 二度とそんな口をきけないようにしてやるぜ』

 私が何の事を言っているのか分からないと言うと、

 その男が言いました。

 『コンビニでイチャモンつけてきたろうが、忘れたとは言わせないぞ』

 その言葉で私は気付きました。

 数日前。

 真希がコンビニでたむろしていた不良をしかりつけてやったと、

 私に自慢して話していた事を思い出しました。

 この男の子たちがその時の不良なのだと思いました。

 この男の子たちは、私の事を真希だと勘違いしていたのです。

 それからは悪夢でした。

 男の子たちが入れ代わり立ち代わり私に襲いかかってきて、

 裸の写真も撮られました。

 人違いだとは言えませんでした。

 言えば真希が同じ目に遭うのが恐ろしかったから。

 こんな目に遭うのは私一人で充分だと思いました。

 そして、口外しない事を約束させられ、解放されました。

 その日は部屋に閉じこもりました。

 真希はそんな私を心配して声をかけてくれたけれど、

 私は無視しました。

 真希が余計な正義感を出すから私がこんな酷い目に遭ったのだと、

 真希に腹が立ちました。

 でも、真希が悪くない事も分かっていました。

 悪いのは私を襲ったアイツら。

 私はアイツらを決して許さない。

 けがされた自分も許せない。

 だから私は、アイツらに償いをさせる。


 衝撃的な内容の手紙だった。


 亜希は真希の身代わりになって、高岡たちに襲われたのだった。


 便箋をたたんで封筒にしまい、真希に返した。


「バカでしょ」真希は封筒を受け取ると、ポツリと言った。


 それは誰に対して言った言葉なのか、私には分からなかった。


 真希の身代わりになった亜希に対してか。


 亜希に身代わりをさせてしまった自分に対してか。


 亜希を襲った高岡たちに対してか。


 それともその全員に対してか。


「どこにあったんですか、それ? 当時遺書はなかったと聞きましたが」

「亜希の勉強机の引き出し。右側に四つ縦に並んでいる、一番下の引き出しの裏にテープでりつけてあったのよ」

「隠してあったんですね」

「そう。だから亜希が亡くなった時にはこの手紙がある事は全然気付かなかった。亡くなったのは事故じゃなく自殺じゃないかとも疑われていたから、随分ずいぶん部屋の中を探したけれど、この手紙は見つけられなかった」

「それでは、いつ?」

「今年の春よ。父が亡くなって家を処分する事になって、家の中を整理していた時に偶然見つけたのよ。それを見つけて中身を読んだ時は驚いた。いえ、そんな言葉では言い表せないくらいショックだった」


 その時の真希の衝撃ははかり知れないものだったのだろう。ある意味、自分のせいで亜希を死なせてしまったようなものだ。これ以上残酷な話があるだろうか。


 それとは別にこの手紙で新たに分かった事があった。


 亜希は高岡との事故の時には、自分は死ぬつもりはなかったのだ。亜希は高岡に制裁を加えた後に、金沢、堂本、轟へも制裁を加えるつもりでいたのだ。


「ショックと同時に怒った。自分に対しては勿論、私と間違えて亜希を襲った男たちにも」

「それで行動に出たんですね」

「ええ。まずは高岡を捜したわ。事故の時に高岡が死んでいなかったのは知っていたから、どこかで生きているだろうとは思っていた。そして捜し始めると、割と簡単に見付け出す事が出来たわ」

「高岡はあの事故の後遺症で半身不随なり、車椅子の生活を送っている事を知ったんですね」

「ええ、だから高岡にはこれ以上の制裁は必要ないと思った。高岡は事故を起こした相手が亜希だと知っているのだから、どうして自分がそんな体にさせられたのかを理解している筈でしょう。私が怒りにまかせて高岡を殺しても、高岡は今の苦しみから解放されて一瞬の苦しみを味わうだけでしょう。それならば、このまま一生半身不随のまま生きさせて、何でそんな体にさせられたかを寿命じゅみょうきるまで背負わせた方がいいと思ったのよ」


 私と同じ考えだった。私も復讐は死よりも苦しみを長く味わわせた方が復讐する相手には効き目があると思っていた。

 

「金沢たちも捜したんですか?」

「ええ、南アルプスの別荘で起こった悲惨な事件の事は当然知っていた。名前は伏せられて報道されていたけど、地元では公然の秘密だったから犯人が誰かは知っていた。それがコンビニの前で遭遇そうぐうした高岡と一緒にいた少年たちだという事をね。事件については、当時少年たちに怒りを覚えていたけれど、どこか他人事という気もしていた。あの事件が起こる前に亜希が同じような目に遭っていただなんて想像もしていなかった。だから亜希の手紙で事実を知って本当の怒りがき上がったわ。轟という中学生が自殺していた事はネット検索をして直ぐに判明したけれど、金沢と堂本を見つける事は困難を極めた。地元で二人につながりのある人たちに消息を尋ねて回ったけれど、誰も噂さえ知らなかったし、中には事件そのものを忘れている人もいた」


 時というものはそういうものだ。当事者以外はどんな大きな事件だろうが、人は忘れ去っていくのだ。


「福丸優子ちゃんの御両親も、私と同じように金沢と堂本の行方を捜していたんですよね?」

「はい。十四年かけてやっと堂本を見つけました。でも……」

「知っているわ。ひどいわよね、ただ反省と謝罪を求めていただけなのに殺されてしまうだなんて。私が先に堂本を見つけていれば、福丸さんは殺されずに済んだものを。悔しいわ」


 真希の顔には悲しみと憎しみが混在こんざいしているような複雑な表情が浮かんでいた。。


「それを言えば私も同じです。私がもう少し早く福丸家へ到着していれば、福丸さんは殺されずに済んだのです」


 私はあの日の前日に高岡を訪ねたところからの経緯を真希に話した。


「そうだったんだ。お互いつらいわね……」

「はい」


 私と真希の気持ちは完全に同化した。


「ちょっと待っていて」真希はそう言うと、公園の外にある自動販売機からあったか~いお茶を二つ買って戻って来て、その一つを私にくれた。


 そして二人はお茶を飲んだ。おかげて冷え込んだ気持ちが少しだけ温まった。


「いつ金沢を見つけたんですか?」一息つけたところで話を再開した。

「まったくの偶然。きっと亜希がめぐり逢わせてくれたんだわ。今年の九月に大学時代の友人と池袋で飲む機会があったのよ。その飲み会が終わって駅に向かって歩いている途中で、男が私に声をかけてきたのよ。『今よりたくさんお金を稼ぎたくありませんか』ってね」

「金沢にスカウトされたんですか?」


 金沢はスカウトの仕事をしていたのだから、真希のような美しく魅力のある女性が目の前を歩いていたら声をかけずにはいられなかったのだろう。


「声をかけられた時、その男が金沢だとは気付かなかった。金沢を捜索中に友人から写真は何枚か見せて貰っていたけれど、どれも十五・六歳の写真だったし、一度会った事があるって言ってもチラッだしね。十四年経過しているんだもの、急に目の前に現れても分からないわよ」

「いつ気付いたんですか?」

「その時はウザイ奴だと思って無視したんだけど、名刺を強引に渡してきたのよ。捨てようと思ったんだけれど、近くにゴミ箱がなかったから取りえずポケットにしまったのよ。そんな事があった事も忘れて家で洗濯しようとした時、その名刺が出てきて名刺に書かれていた名前に気付いたのよ。【金沢拓也】捜し求めていた名前。ねっ、これってやっぱり亜希が引き合わせてくれたと思うでしょ?」

「はい、思います」


 これは偶然では片付けられない、願い続けた末の必然だ。


「それから池袋へ行って金沢を捜したわ。金沢は直ぐに見つかった。その時金沢は通りで色々な女の子に声をかけていた。そんな金沢を見て、この男は女性をものとしてしか見ていないんだと腹が立った」


 分かる。春山も同じ人種だ。


「私は仕事終わりや休日に、池袋にかよって金沢の行動を観察したわ。そしてどう制裁を加えればいいか、計画をった」


 私は息を殺して真希の話に聞き入った。この先の話は、私が捜査している事件の答えそのものだ。


「その計画は、麻酔薬を使って眠らせて、拉致して、車で甲府の実家へ連れて行き、診察室に監禁して、相応の制裁を加える事にしたのよ。実家の歯科医院の診察室は防音設備が施されているから、拷問しても近所への音漏れの心配はなかった。歯科医院だけあって拷問器具になるようなものもたくさんあったからこれ以上の場所はないと思った。そして十一月に入って、溜まっていた有給を使って計画を実行する事にしたのよ」

「体格のいい金沢を真希さん一人でどうやって拉致したんですか?」捜査で疑問に思っていた事を尋ねた。

「それは私も一番苦労すると思っていたけれど、いざ実行してみるとあっさりと成功したのよ」


 結論より過程の方を知りたかった。


「どうやったんですか?」

「それはね。普段は決して着る事のない派手な服を着て、両手いっぱいにショッピングした紙袋を持って、金沢がスカウトをしている通りを歩いたのよ」


 頭いい。


「金沢に声をかけさせようとしたんですね」

「そう」

「それから?」

思惑おもわく通りに金沢は私に声をかけてきた。私は荷物を持って駐車場の車まで運んでくれたら話を聞いてあげてもいいという条件を付けた」

「金沢はそれに乗ってきたんですね」

「簡単にね。金沢は何の疑いもなく荷物を持って私の後を付いて来た。車まで連れて来られたら、後は楽勝。荷物を車に積み込ませて貰っている間に、背後から睡眠薬の入った注射器の針を刺し込めばいいだけ。こっちは本職だからね。相手がどんな体格だろうと身動き出来なくさせる事はお手のものよ」真希はイタズラが成功した子供のように茶目っ気たっぷりな笑顔を見せた。


 パチパチパチ……。私はその見事な手際てぎわに心の中で拍手を送った。


「拉致に成功すると、夜中の中央高速を走って甲府の実家に連れて行った。そして診察室の椅子に身動きが取れないようにしばり付けた」


 その姿を想像した。歯科医院の椅子は頑丈がんじょうで、人を縛り付けるにはてきした物だと思った。


「椅子に縛り付けても金沢はまだ麻酔から覚めなかった。そこで私は、目覚める前に手始めとして、父が残した医療用レーザーを使用した。金沢の眼球を焼きつぶしたのよ」


 医療用レーザーの熱さがどれほどのものかは知らなかったが、麻酔がかかっていなければ尋常じんじょうではない痛みを感じたのではないだろうか。それを回避かいひしてやったのは、真希の金沢に対するせめてもの優しさか。


「しばらくすると金沢は麻酔から目覚めた。目覚めたけれども、目が見えない事を理解出来ずにいたみたい。だから私は金沢の耳元に口を近付けて、私が今した事を教えてやった。すると金沢は『殺してやる』だの『許さねえ』だのボキャブラリーにあるおどし文句を口汚くののしってきたわ」


 いい気味だ。きっと金沢は罵りながらも恐怖を感じた事だろう。


「私は金沢の口から自分の犯した罪とそれに対する懺悔ざんげの言葉を聞きたいと思った。だから私はわめく金沢に自分の罪を懺悔しろとせまったわ。でも金沢はなおも口汚く罵り続けた。そこで私は黙らす為に、医療器具をしまっている棚から抜歯鉗子ばっしかんしを取り出して、麻酔をかけずに前歯を強引に抜いてやった」


 その光景を想像して思わず顔をしかめてしまった。麻酔なしで抜歯をした事はなかったが、その痛さの想像は出来た。


「金沢は前歯を二本抜かれても強がった。それならばと、祖父の時代の医療用のカナヅチを出した。今は使用する事はなくなってしまったけれど、昔の歯医者は抜歯にカナヅチを使用していたのよ」


 これはある意味、家族総出の制裁だ。こんな話は普通の人は残酷ざんこくだと思うかもしれないが、私には痛快つうかいな話に聞こえた。


「カナヅチを構えて、目の見えない金沢に私がこれからしようとしている事を教えてやった。すると金沢は初めて顔をひきつらせた」


 金沢は、これでようやく優子や亜希が味わった恐怖の一端いったんが体感出来た事だろう。


「それでも金沢は強がって『やれるものならやってみろッ!』と言ってきたから、私は望み通りに下の前歯めがけてカナヅチを力一杯叩きつけた」


 私は思わず拳を強く握った。


「折れた前歯が飛び散った」


 その時に金沢のアゴもくだけたのだろう。


「金沢の目から初めて涙がこぼれた。そして泣き言が出て、やっと懺悔でも告白でも何でもすると言った」


 アゴと同時に心も砕けたという事か。


「金沢は思い出しながらゆっくりと話し始めたわ。歯が折れていたので聞き取りづらかったけれど、ハッキリと聞いた……。でもそれは、私が期待していた言葉とは違った……。それは予想もしていなかった身の毛もよだつ恐ろしい話だったのよ」


 真希はそこまで言うとしばらく言葉を詰まらせてうつむいた。


 えっ、何?


 それまでの真希とは明らかに雰囲気がガラリと変わった。私は真希の次の言葉をジッと待った。

 

 三十秒ほど沈黙が続いていただろうか。真希はおもむろに顔を上げ、私の方へしっかりと顔を向けて話し始めた。


「金沢が最初に懺悔をしたのは、福丸優子ちゃんにだった。拷問から逃れる為で本心からの懺悔ではない事は見え見えだったけれど、一応は後悔と反省と謝罪の言葉は言った」

「最初が優子ちゃんだったんですか? 亜希ちゃんではなく?」


 犯罪の順番で言ったら亜希が先なので、懺悔をするならば亜希からが筋である。バレていないと思って、なかった事にしたという事か。それとも忘れてしまったとでも言うのか。


「金沢から亜希への懺悔の言葉は聞けなかったわ。金沢の頭の中では亜希にした事は大した罪ではなかったのよ。金沢は亜希にした事より酷い罪を犯していたのよ」


 亜希より酷い罪って何をしたの? 金沢が犯した罪は亜希と優子の二人だけではなかったの?


「金沢は大阪で一件。東京で二件。福丸優子ちゃんにした事と同じような事件を起こしていたのよ」


 えっ、何て?


 突然の予想もしていなかった告白に、私の頭は混乱した。


「同じような事件て……」

「優子ちゃん以外にも三人の女の子を監禁して、暴行して、殺して、遺体を遺棄していたのよ」

「大阪と東京でですか? それはいつの事ですか?」

「大阪の事件は去年の十二月。大阪湾で死体で発見された若い女の子がいたのを憶えていない?」


 私は記憶を探った……。


「すみません、憶えていません」

「謝る事ないわよ。私だって知らなかったんだから。だからネットで調べてみたのよ。それによると、去年の十二月に大阪湾で腐乱死体が浮遊ふゆうしているのを釣り人が発見して、その死体が二十歳前後の身元不明の女性という事件があったの。死因の特定は不明だったみたい。でも顔の一部の骨が陥没骨折していて、肋骨ろっこつも三本折られていた事が判明して、警察は殺人事件として捜査本部を設置したらしい。現在は犯人を特定出来ないままその捜査本部は解散していて継続捜査に移行しているみたいよ」

「・・・あっ!」


 顔の骨と肋骨が骨折していたと聞いて、似たような事件が東京で起こっている事に気が付いた。


「東京の事件とは高尾で発見された二人の女性の事ですか?」


 遺棄された時期は異なるが、二人とも顔の骨と肋骨が何かで叩かれたように折られていたのだ。


「そうよ。その二人を殺して高尾の森の中にゴミと一緒に遺棄したのも金沢の仕業しわざ。金沢は女の子を暴力で支配して快楽にきょうじる事に喜びを感じていたのよ」


 この世の中には、女性に暴力を振るう事でしか性的興奮を満たされない男がいるという事を聞いた事がある。金沢にはそのへきがあったという事か。


 にわかには信じがたかったが、もしそれが本当ならば刑事の私はどうすればいいのだろうか。


「それは本当の本当に間違いないのですか?」

「私の拷問に耐えかねた金沢が告白した事よ。あなたも金沢の背中のタトゥーを見たでしょう。あれこそが金沢が犯罪を起こした証拠よ」


 金沢の背中に彫られたタトゥーを思い浮かべた。蜘蛛のタランチュラを中心にして、蜘蛛の巣に捕らえられていたあわれな蝶が四頭いた。


 四頭……。四……、四人。福丸優子で一人、大阪で一人、東京で二人、合計で四人だ。亜希は殺していないのでそこには含まれていないのか……。


「あの蝶は殺された四人を表していたんですね」

「そう。そして蜘蛛が金沢本人のつもりよ。ふざけた奴よね、自分が起こした殺人を記念して背中に描くなんて」


 金沢という男は、根っからの悪人で狂人だったという事か。


「証拠はタトゥーだけじゃないのよ。東京で起こした殺人については決定的な証拠があったわ」


 真希はそう言うと、かたわらに置いてあったキャリーバッグとヴィトンのバッグを、二人の間に移動させた。


「このヴィトンのバッグは大宮の女の子の持ち物。そしてこのキャリーバッグが世田谷の女子高校生の持ち物。残念ながら大阪の女の子の所持品はなかったわ」


 だからこの二つのバッグは真希に似合わなかったのか。


「どうしたんですか、これ? どこで……」

「金沢の部屋に置いてあったのを持って来たのよ」


 それはつまり、金沢の部屋を掃除したのが真希という事だ。でもどうして?


「私はね、当初は金沢への制裁は失明させるだけで済まそうと思っていたのよ。でも、かたくなに懺悔ざんげをしようとしないので、麻酔をしないで歯を抜いた。それで懺悔を聞けたら解放するつもりでいたのよ。失明したら残りの人生で悪い事は出来ないだろうし、不自由な暮らしで人生は辛いものになるだろうしね。それでいいと思っていた。それが……」

「金沢からの予期していなかった犯罪の告白を聞いて、気が変わったんですね」

「ええ。それまでの私の考えが甘い事に気付かされた。亜希と優子ちゃんに加えて、他に三人もの罪のない女の子に残忍な事をしておいて、その償いが両目を失い、歯を抜かれたぐらいでは釣り合いが取れないと思った。だけど一瞬の死の痛みを味わわせるだけでも嫌だった。だから言葉を失わせる為に声帯を切った。音を失わせる為に鼓膜こまくを破った。手足を失わせる為に血液の流れを止めて壊死えしさせた。鼓膜は治癒ちゆされるみたいだし、声帯も手術をすれば治るみたいで残念だけれど、手足は奪う事が出来た。これで金沢は残りの人生をぶざまで苦痛に満ちた中で生きて行くしかなくなったのよ。でもそんな姿になっても金沢は反省や後悔をしないかもしれないけれど、死刑にするよりはずっといいと思わない?」

「思います」私は大きくうなずいた。


 復讐の為に復讐相手を殺す事が最大の罰ではないのだ。金沢みたいな奴は、一生を苦しみの中で生殺しに生かした方が罰としての効果があるのだ。


 そうか! 私は真希が金沢の部屋から女の子のバッグを持ち出し、女の子の痕跡こんせきを消した事の意図いとに気が付いた。


「分かったみたいね」その私の表情を読んで、真希が言った。

「はい。警察があのバッグを見つけて、金沢の部屋に女の子たちの痕跡を発見したならば、金沢は少なくとも高尾の二件の殺人でさばかれてしまうんですね。そうなれば、金沢の場合死刑になる確率が高くなってしまう。真希さんはそれを回避かいひしたかったんですね」

「そうよ。私の出来る範囲で金沢の身元が分かるようなものはなくしたけれど、それでもいつかは警察が金沢の身元を特定して、部屋を捜索するだろうと思った。だから殺人の証拠となるようなものは全て取り除いておいたのよ」


 真希さんが懸念けねんしていた通り、金沢の部屋に警察の捜索は入った。あの時、私と鯵沢がこのバッグを発見していたら、高尾の事件は大きく解決に向けて動いた筈だ。


「私のエゴだとは分かっていたけれど、金沢の最後を死刑で終わりにしたくなかったのよ」

「真希さんの気持ち、私には分かります」私は静かに同調した。

「ありがとう」


 真希は大きく息をいた。白い息が公園の空へと消えて行った。


「ああスッキリした。こんな話は絶対に誰にも話せないと思っていたから、あなたに話せてスッキリしちゃった」

 

 真希は子供のように両手足を広げておどけた。


「私も疑問が解けてスッキリしました」

「そう。それは良かったわ」


 広げた両手足を閉じた。


「で、どうする? 気は変わっていない? 私の事、逮捕する?」

「いえ、しません。私には真希さんを逮捕する資格はありませんから。私も真希さんと同じような事をしているんですから」

「そう」

「でも、もしかしたら私以外の刑事が真希さんのした事に気付く可能性はあります。勿論私は私が出来うる限りそれを阻止しようと思っていますが」

「それは止めて。そんな事をしたらあなたの立場が危うくなるじゃない」

「いいんです。この事を理解出来ない人には真希さんを裁かれたくありませんから」

「ありがとう。でも大丈夫。あなたが今日見逃してくれるなら、私は年末にはアフリカへ旅立てるわ。そうなれば二度とこの国には帰って来ないつもりだから、この国の警察には捕まる心配はなくなるのよ」

「二度とって、ずっとアフリカにいるつもりなんですか?」

「そうよ。昔風に言うならば、アフリカの大地に骨を埋めるつもり。麻酔科医の私にどれくらいの事が出来るのか分からないけど、私にやれる事は何でもするつもりよ。そして一人でも多くの人の力になるわ。それが私の償いの仕方」

「償いって、誰にです? 真希さんは誰にも償う必要なんかありませんよ」

「ううん、あるわ。私は亜希を助けてあげられなかった。それに世田谷の女子高校生も。彼女は私が金沢を見つけた後に殺されたのよ。私がもっと早くに金沢に制裁をしていれば、彼女は殺されずに済んだ筈よ。だから二人に対しての償い」


 それを言われてしまうと、私には『償う必要はない』とはもう言えなかった。


「でも、無理しないで下さいね」

「しないわ。だって償いは出来るだけ長い方がいいもの」


 真希はそう言うと、とびっきりの笑顔を見せた。私は笑顔を返そうとしたが、涙があふれてきて出来なかった。


 その私の涙を真希はハンカチを出して優しくぬぐってくれた。


「……私も何か償いを考えなければなりませんね」

「あなたが? 誰に対して償うの?」

「それは……、私のお母さんにです」


 私にはどうにも出来なかった事だけれども、私は私がお母さんのお腹に宿った事に後ろめたさをずっと感じていたのだ。


「バカね。あなたのお母さんはあなたに償いなど求めていないわよ。でも、どうしても償いたいというのなら、あなたが幸せになる事ね。それがお母さんへの最高の償いになると思うわ。そう考えなさい」


 真希のその言葉に、私の瞳から再び涙が溢れた。


 気持ちが落ち着くと、残りの疑問を解消させて貰った。


 この公園を金沢の遺棄場所に選んだ理由は、自分が勤務する病院に金沢を搬送させ、金沢の傷病の経過を観察したかったからだった。


 そしてこの公園の電話ボックスから救急へ『助けて』と救助を要請した声は、真希が金沢を拷問した際に録音した金沢の声であった。だから電話から聞こえた声は弱弱しかったのだ。


 高尾の警察署へ高尾山の麓の不法投棄現場に女の子の死体が遺棄されていると通報したのは真希だった。彼女たちがいつまでも誰にも見つけられずに放置され続けていられる事を不憫に思ったからだった。


 金沢の監禁場所である甲府の実家は解体し、拉致に使用した車や車椅子は廃棄処分にしていた。だから金沢の拉致監禁暴行の証拠は何一つ残っていないと、真希は自信タップリに教えてくれた。


 そして何より驚かされた事は、私と鯵沢が金沢の身元を特定して金沢の部屋へとおもむいたその時、真希が金沢の部屋の中に滞在していたという事だった。真希は金沢を遺棄した次の夜から、金沢の部屋にある二人の女の子の痕跡を消す作業を毎夜していて、あの日は最終チェックに訪れていたそうだ。部屋の外の気配を感じて息を殺してジッとしていたそうだが、ドアを開けられたら観念する覚悟までしたらしい。結果私たちは出会わなかったので、真希の計画は完遂出来たのだ。


 私は今更ながら、ピッキングなどしなくて良かったと胸をなでおろした。


 そして話が終わると、真希は歩いて公園を後にした。


 私の元には、ピンクのキャリーバッグとヴィトンのバッグ、それに真希が巻いていたマフラーが私の首に残された。


 この二つの証拠品は、そう遠くない日に二人の遺族へ真相を記した手紙と共に送るつもりだ。


 その行為は遺族には理解されないかもしれないが、私たちのした事には私も真希も後悔はなかった。

 


     


 

 


 

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