孤高の狼とどっかの川
10時にバイトから帰って誰も居なくなったアトリエで絵を描き始める。月夜に吠える狼。一匹の孤高の狼が月に向かって吠えているそんな絵をイメージして描いていた。基本は、群青色。紙に絵具を擦れさせるようにして、闇夜の妖しさを出した。絵を描いている時が一番好きだ。孤独を忘れさせてくれる。絵の世界にどっぷりと浸からせてくれる。
「お前の絵って、生きてないんだよな」
ふっと後から声がした。師匠だった。
「お前の狼が動かないんだよ。それに何だか寂しいし」
「何がいけないんでしょうか?」
師匠は、何か考えるように、頭に右手を当てて目をつむった。
「お前、心に冷たい風が吹いているだろ」
「そんなの分かるんですか?」
師匠は、狼を指さした。
「強いはずの狼が泣きそうな声で吠えているように見えるぜ」
改めて自分の絵を見てみる。確かに寂しい感じがする。
「もう一回図案から描き直すべきでしょうか?」
師匠は、右手を俺の肩の上に置くと、
「今度の日曜日、〇川まで行こうか?」
「〇川? ですか?」
〇川は、市の境目を流れる川だ。どうして、そんな所に。行っても意味ないじゃん。
「後、半年で絵の大会です。そんな暇はありません」
師匠は、俺の頭をぽんぽんと叩くと、
「つうっ事で、日曜日はピクニックだな。俺の嫁さんに弁当作ってもらわねえと」
「ちょっと!」
思わず、大声を出した。構わず師匠は、
「感謝しろよ。俺の嫁さんの手作りの弁当が食えるんだから」
そう言って、アトリエを出て行って、自分の家の中に入って行った。
本当に何しにいくんだろ。そんな事を考えながら今度の大会の絵の構図を夜遅くまでずっと考えていた。
日曜日、10時に、俺と師匠と師匠の奥さんの三人で徒歩で〇川に向かった。師匠の奥さんはショートカットで身長150センチ位。目がくりくりしていて可愛い。それにちょっと天然で自由奔放な所があって面白い。名前は洋子さんと言う。
「ねえねえ。お日様が気持ちいいね!」
洋子さんがう~んと背伸びする。本当に気持ちよさそうだ。ふと胸のふくらみが目に入る。いけないと思ってぐいと目を反らした。
「ああ、今日は絶好のピクニック日和だな」
「そうね~。丁度私も仕事一段落ついたし」
洋子さんは、介護の仕事をしているのだった。今日は休みを取ったみたい。
「そうだな。俺も絵ばっかし描いてると疲れるし、たまにはこういう気晴らしもあっていいかな。見てみろよ」
師匠は晴れやかな口調で俺の方を見る。一緒に〇川の土手を登った。バーベキューしている人もいれば、釣りを楽しんでいる人もいる。キャッチボールをしている学生までいる。
「こっちこっち!」
附いて行くと、そこは人がいない。目の前に川が広がる。師匠と奥さんは腰を下ろす。ぽけ~としていると、座れと言われた。風がさあ~と流れ、川がさざ波を立てる。座った先には、クローバーが群生していた。
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