修行
「アトリエ、後片付けしておけよ」
「はい、分りました」
俺は今、とある画家の元に修行に来ている。杉並先生だ。俺は師匠と呼んでいる。師匠はツンツンヘアーでちょいと茶髪。身長は170センチあり、夏はTシャツにワイシャツを組み合わせたりした服装なんかしておしゃれな師匠だ。伊達眼鏡も掛けてるし。師匠は三五歳で、二つ下の奥さんと二人暮らし。
家の構造としては、アトリエが独立してあって、横に平屋の家があるって感じ。アトリエと呼ばれる場所は、一階建てのプレハブ小屋だ。中には、大小様々な絵が飾られている。中央には絵を描く椅子と台が置いてあって、日当たり最高! 隅には、観賞植物が太陽の光を浴びて元気良く葉っぱを伸ばしている。疲れた時には、寝て休めるように、黒いソファーもある。空調はイマイチだが。夏は暑く、冬は寒い。中には夏用の扇風機しか置いていない。冬は毛布に包まる。
師匠は、19の時に日本で画家の登竜門と呼ばれる賞をもらった。俺がこの人を師匠にするって決めたのも師匠の19歳の時の絵を見てからだった。例の鯉の絵の画家だ。つい2か月前には、世界的な賞ももらった。それにも飽き足らず上野の絵画展にちょくちょく見に行っては、何かデザインをノートにメモをしている。普段は、漫画のイラストなんかも描いて生計を立てている。何事も勉強だそうだ。本当に凄い人である。
それに比べ俺なんかもう17だ。高校進学は諦めた。勉強はしたのだが、受験校全滅だった。あの時は、大変だった。父親からは殴られるし、お袋からは泣かれるし、弟に関しては、馬鹿にして目も合してくんねえ。俺は逃げるようにして、故郷を飛び出た。
今は師匠の家の近くにアパートの一室を借りて、そこで生活している。洗濯、掃除、食事……。まあなんとかやってる。一人暮らしして分かった事は洗濯も結構大変だと言う事。洗濯は手を抜いて行うと、洗濯物が生乾きしてしまい、匂いが付く。その場合はもう一回洗濯のし直しだ。食事もそうだ。野菜を抜くとすぐ口内炎が出来て痛い思いをする。そして、結構ワンパターンな食事にもなりがちで飽き飽きしてしまう。
「そうだ! お前、母ちゃんから手紙来てんぞ! ほれ!」
そう言って、師匠は、俺に手紙を渡す。白い封筒に、あるアニメの切手。まだ子供扱いかよ。反吐が出る。どうせ、中身は夢なんか見ないで、高校進学しなさいとか書かれているんだぜ。見なくても想像出来るから、そのまま俺の道具箱の中に突っ込んだ。そんな手紙を見るよりも、これから今度の大会の作品作りに、バイト。師匠の手伝い。やる事が沢山ある。見る暇なんてない。もう30通くらい来ているが、全く見てない。もう定例行事になってしまった。
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