家族
北海道の思い出と
俺の名前は、藤堂 守(とうどう まもる)。坊主頭、眼鏡をかけていて、身長157センチ。平々凡々な中学生である。
3年生の夏の終わり、家族みんなで北海道旅行に行った。親父とお袋、それに弟の龍と俺の四人で。本当に楽しかった。小樽の海ではこんなエピソードがあった。お袋と弟と俺の三人で海を眺めていたら、おじいさん、おばあさんがやって来て「早まるんじゃない、人生まだまだ長いんだから」と諭されてしまったのだ。死んでしまうと思ったのだろうか。ただ、海に浮かぶクラゲを見ていただけなのに。思わず、三人で顔を見合わせ、笑ってしまった。
しかし、その後そのおじいさん、おばあさんにご当地メニューのおいしい場所を教えてもらい、ウニ丼を堪能した。他にも各名所をレンタカーで回った。
富良野のラベンダー畑に行ったが、もうシーズンが終わっていたというズッコケ話もある。
そんな楽しかった様々な想い、すべてを絵に込めて夏休みの自由研究として提出した。
時は経ち10月。ここは中学校の教室。黒板の前で先生が源氏物語を朗読している。
「藤堂!」
俺は隠れて画集を見ていた。杉並博の『形』って画集。幻想的な絵だ。特に19の時に描いた『天高く登る鯉』は凄まじいスケールだった。流れ落ちる滝に何匹もの鯉が飛び跳ねて登っている。荒々しく美しかった。画集では、だいぶ迫力がないが、それでも十分過ぎる程の迫力だった。
「藤堂!」
思わず立ち上がった。画集を持ったまま。
「はいっ!」
先生は、国語の教科書を片手に俺をにらんでた。
「お前、そんなんでいいのか! ぼお~っと人生、生きてて! あっという間におじいさんになっちまうぞ!」
「はあ」
先生の声に思わず、間の抜けた声を出してしまった。教室が笑いの渦になった。先生は静かにと言うと、俺を座らせた。
「それでは、次のページに移る」
先生が高々とそう言った。
昼食時には、いつもの通り友達と弁当を食った。友達の弁当は、卵焼きにウインナーにチャーハン。俺の飯は、近くのコンビニで買ったおにぎりと惣菜。ちょっと友達の弁当がうらやましい。そんな事を思いながら黙々と食ってると、友達がこんな話をしてきた。
「藤堂、聞いてる?」
「何が?」
「今日のホームルームだよ」
俺は梅干を食って、酸っぱさを楽しみつつ、
「また、先生の長い説教だよ」
友達が俺の頭を軽くはたくと、
「それがさ、そうでもないんだって。何かでかい賞の発表みたいよ。ほら、この間の夏休みの自由研究。あれの賞だってさ」
「本当か」
「嘘なんかつくか! まあ、俺達には関係ないから、退屈っちゃ退屈だよな」
その話を聞いて、どきっとした。もしかしたら俺の絵が選ばれたのかも。もしかして一躍有名人! 家族に認めてもらえるかな。高ぶる気持ちを落ち着かせようとおにぎりの残りを丸呑みした。息が詰まって、友達の麦茶を奪って飲み干した。
思い起こせば、俺はお袋にも家族にも否定されて育ってきた。小学生の頃、受験に落ちた時、お袋に「やっぱし私の子だわ」とため息つかれた時はへこんだ。そのくせ、一年後、弟が中学受験に受かった時も「やっぱし私の子だわ」と言ってた。親父も誇らしげだった。その時はもっとへこんだ。
いくら頑張っても認めてくれない家族に嫌気が刺した時もあった。でも、どんな否定されても家族がいるから、まっとうな道を歩んできたのだと思う。
特に、お袋は自分にはほとんどお金をかけなかった。そういうお袋を含めた家族に認められたい一心で今まで生きて来た。
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